ギルドに登録しても色々ありまして②
「クソ……やべぇ、思っていた以上に異世界って命の危機があり過ぎる」
虚偉は気付いていないのだが、そもそも魔法使いが一人で街の外に出るのはかなりの危険なことなのだ。それが成されてしまったのは5級だったからだ。
「……どうしよう。戦力を雇うか……? いや、だが金がかかるし……」
正直、打つ手なしだった。そう思った瞬間、視界の端で見えた光景。そして脳裏に閃いたそれに虚偉は少し黒い笑みを浮かべていた。
*****
「奴隷の購入をするにはどこが良いのか」
裏地区で顔を隠し、情報を集めていると商業地区の裏路地にある奴隷店が良いという情報を得た。どうやらこれも王は黙認しているらしい。まぁ、誘拐された挙げ句の奴隷などがいないように身分を調べてはいるらしいが。
親に売られた、借金が返せなかった、犯罪者。そういった者たちが奴隷に身を落とすのだろう。虚偉は淡々と考えながらお勧めされた店の扉の前に立つ。そこは一見、民家の裏口のようだった。とりあえずノックして
「蛇の嫁を探しに来た」
「……」
どうも聞いた話によると、こう言わないと反応がないらしい。ちなみに蛇の嫁で奴隷の意味らしい。どうでも良い。
ちなみに色々と教えてくれた奴は最後にここの関係者だ、と教えてくれた。道理でよく知っていたわけだ。
「兄さん、若いねぇ。それでどんなのを探しに来たの?」
「肉壁だ。俺が魔法を使うための時間を稼げるのなら何だって良い」
「……こりゃ見てもらった方が良いかもしれねぇな。兄さんみたいな奴もたまにいるんだよ」
「へぇ、どんな感じで?」
「目的はあっても使い潰す気満々の奴さ。そういった奴は在庫処分にも良いんだよ」
「そいつはWin-Winだな」
「ああ、だろ?」
得意げな男は部屋を出て、上と下へ向こう階段の前で立ち止まった。そして少し悩むような顔をして
「兄さん、資金はどれぐらいあるんだ?」
「資金……購入予算のことか。金貨3枚までだ」
「ふーむ……ちなみに安物並べるのと高いの一人、どっちが良い?」
「む」
考えていなかったな。とりあえず
「高いのが良いな。多いと面倒だ」
「それに処分は含まれているのか?」
「ん?」
「あぁ、いや。奴隷を殺すのは一応犯罪だぞ? 直接手を掛けたら、だがな」
「魔法は直接になるのか? なるのなら……」
範囲を巻き込む魔法は使えないな。そんな風に虚偉は思っていたのだが相手は
(要らない奴隷を自分の手で殺す気か!? ……こいつ、ひょっとしてかなりの奴隷を今までに殺っているんじゃないだろうな? そのぼんやりとした目は殺し慣れた目か!)
勝手にそんな風に思われているとも知らず、虚偉は相手をぼんやりと眺めていた。
「さっさと案内してくれ。別に警戒しなくても殺すつもりはない」
「本当か?」
「何故疑われるんだ……信じろ、俺を」
「初対面の相手を信じられるかよ」
まったくだ。
*****
「どうやら高い奴隷たちは自らを売り込むのに手慣れているようだな」
「娼婦として買う奴もいるくらいだからな……性格や体で選ぶ奴もいるんだよ。だから良さそうな男には媚びを売るんだ」
はっ、と思わず笑ってしまった。
「俺に何か見所でもあったのか?」
「魔法研究のマントを羽織っている時点で優良物件だろうな。お前みたいなのがそうそう来ないからこそ、あいつらは自分を磨こうと努力している」
「そうなのか」
奴隷の日常はそんなものなのか、と思っていると
「どうする? 他のも見るか?」
「ああ、そうしてくれ」
「ああ、分かった。だが覚悟はしておいてくれよ」
「あ?」
「こっちのは素性の知れない犯罪者が奴隷にされた奴らなんだよ。だから……いや、お前なら大丈夫だろう。そのふてぶてしさならな」
「お前喧嘩売っているのか? 撃つぞ」
「おお、怖い怖い」
思ってもいないくせに。そんな風に虚偉は思いながら階段を降りる。どうしてこういった物は地下を好むのか、と思っていると扉があった。それを開けると
「……何だ、この匂いは?」
「へ? どの匂いだ?」
「この腐ったような甘い匂いだ……お前、本当に分からないのか!?」
「あ、ああ……さっぱり分からねぇ」
「ここにい過ぎて匂いに慣れたのか……? 何にせよ、臭いな」
鼻を抓みたくなりながら周囲を見回す。ここが安物、と言うのは本当なんだろうな。
たくさんの檻が立ち並んでいる。それを睥睨しながら歩いていると
「コレとかどうだ? 飲食店で食い逃げをしようとして失敗した元剣士だぜ」
「……再犯はないのか?」
「契約するからありえねーよ。ま、主人が命令でもしない限りはな」
「そうか」
だが、こいつは気に入らない。何故なら寝首を掻こうという鋭い瞳だからだ。まぁ、単純に目つきが悪いのならごめん。
「――少し、魔法を使っても良いか?」
「あ? 殺すなよ」
「ああ、分かっている。ただ、奴隷の状態を眺めるだけだ」
「あぁ、《視状》か。好きに使えよ」
「そうさせてもらう」
《視状》で次々と奴隷を眺めていっていると色々な職業を見ることが出来た。
《剣士》、《戦士》、《魔法使い》、《僧侶》、《弓士》などのRPGなどでありふれたそれらに対し、《兎人》、《狼人》、《猫人》等といった獣人。そして――
《悪魔》。
「深きを見通せ《視状》……?」
《悪魔》の少女のステータスが見えている、はずだ。だが
『――(隠蔽 アガリアレプト) 女 ――(隠蔽 384)歳
職業 人間(隠蔽 悪魔)
レベル――(隠蔽 784)
HP ――/――(隠蔽 4788/4788)
MP ――/――(隠蔽 9999/9999)
STR ――(隠蔽 3800)
INT ――(隠蔽 9999)
VIT ――(隠蔽 3152)
AGI ――(隠蔽 4899)
LUC ――(隠蔽 2455)
状態 隠蔽』
「何だ……お前」
「ふぇ?」
「お前、何だそのステータスは!?」
「え……?」
「お前のステータスは何故、隠蔽されている?」
本来の《視状》ならばおそらく、見透かせなかっただろう。なんとなく直感的に詠唱して良かった、と改めて思った。
「……おい」
「なんだ?」
「この少女は一体どんな感じでここにいるんだ?」
「あー、そのガキか。そいつは商業地区で盗みを働いたらしいな。そいつは――そうだな、銀貨三枚で良いぜ」
「ん、分かった。金貨から頼む」
おつりは銀貨97枚、100枚でランクが上がると考えておこう。とりあえずその少女、アガリアレプトを檻から出す。
アガリアレプトは俺の顔を見上げ、薄らと、しかし明らかに笑みと分かるそれを浮かべた。そして
「私を買ってくださり、ありがとう御座います」
「……」
「他にも買うのならそいつは見張っておくが? どうする?」
「……いや、こいつ一人で良い。むしろこいつ一人が良い」
話し合うのに向いていないから、そう思っていたのだが男は誤解したのか
「お前……少女趣味なのか」
「あ!?」
殴ろうか、と心から思った。すると男は慌てたように両手を振って
「冗談だよ冗談……」
「笑えない冗談は止めてくれ……それよりも契約とやらをさっさと済ませろ」
「ああ。とりあえずこの紙の必要事項にチェックを付けてくれ」
「はい?」
「この紙、魔法紙でさ。契約するために使っているんだよ。燃やしたら契約完了だ」
一枚欲しい、虚偉の目が輝いていたが男は気付かず、その紙とペンを手渡してきた。そして
「最低限必要なのはお前に危害を加えない、逃げない、再犯しないくらいじゃないのか?」
「……ああ、そうだな」
他に書いてあることは……あまり、呼んでいて気分が良い物では無かった。だから最低限必要なのをチェックし、
「炎よ《ファイア》」
省略魔法で燃やした。
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