召喚されたら色々ありまして⑤

「カッツィオ、高速で詠唱するイメージが難しい」

「どういうことだ?」

「俺にとっての高速は詠唱を短くする、がある。だから少し混乱している」

「混乱……か。まぁ、仕方ないだろうな」


 カッツィオは黒板の前に立ち、詠唱を書き込んだ。そして


「ウツロイ、省略魔法と俺の目指している高速魔法の違いを簡単に説明しようと思う」

「ありがたい」

「まずお前が創り上げたのが省略魔法、詠唱を省略し、威力を削った魔法だ」

「やはり威力は削られているのか……なんとなく、予想は出来ていたが」

「なんだ、分かっていたのか」

「そのくらいならな……続けてくれ」

「ああ」


 カッツィオはさらに文字を書いた。そして


「まず省略魔法はそのままの意味だ。威力を削った魔法、そんな理解で良い」

「分かった。だが高速魔法の目指している物は何なんだ?」

「ああ、速度だけで良いんだ。相手の動きを一瞬でも阻害できる魔法を目指しているからな」

「なるほどな。だったら現存している魔法を高速化は無理なんじゃないのか?」


 かもな、とカッツィオは頷いた。だがカッツィオは続いて


「だが俺は現存している魔法を高速化できる、と信じている」

「そうか……カッツィオ」

「なんだ?」

「俺は高速魔法を作る、お前は高速化する。それでやってみないか?」


*****


 さて、高速魔法を作る、と言い切ってしまった。だが俺はそれを撤回するつもりはない。だから


「しばらくは研究しないといけないな……だが」


 そのためには邪魔な者が多い。だから


「カッツィオ、俺はこの国を離れようと思う」

「なんだと!?」

「世界各地を見て回り、様々な魔法を知り、研究するつもりだ」

「……高速魔法は、どうするんだ?」

「実用性があるように研究する。そのための旅と言っても過言じゃない」

「ウツロイ……」


 カッツィオは目元を手の甲で拭い、手を差し出してきた。その意図を組み、手を握る。そして


「必ず、研究の成果を見せつけに来る」

「それなら俺も成果を見せるさ」

「楽しみだ」

「俺もだ」


*****


「ところでカッツィオ、俺もそれに出ないといけないのか?」

「ああ。お前の協力があったからこそ、省略魔法は出来たんだ。お前がいないとダメだ」


 別れを済ませたつもりだったのだが、カッツィオの頼みにより研究発表会に出ることになっていた。

 俺の役目は省略魔法の実演、カッツィオが言葉による解説を受け持っている。そして――研究発表会は始まった。だが


「魔法を、新たな魔法の開発の方が多いのか?」

「むしろ現存している魔法を研究しているのは俺たちくらいのようだな。これはライバルが少ないかもしれないな」

「魔法の研究は色々なジャンルがあるのか?」

「ああ。現存魔法の改良、新魔法の開発、魔法に影響する道具の開発……色々あるな。俺が知らない物も多いかもしれない」

「そうなのか」


 発表を眺めていると、面白そうな魔法はいくつかあった。だがそれらは必ずと言っても良いほどに『五元素が一つ』から詠唱が始まっていた。それはつまり


「光と闇の属性は使われないのか?」

「あの二つは威力が低いからな、戦闘向けの魔法じゃないんだ」

「そうなのか?」

「ああ。アンデッドには光を……ってのはあるが、それも特定のモンスターにしか通用しないんだ。それに、闇は光魔法を無効化するくらいしかない」

「実体がないからか……? まぁ、良い。色々と考えてみるか」


 俺たちの発表は滞りなく進んだ。そして――何故か来賓していた王が参加していた研究者たち、発表した研究者たちに次々とマントのような物を渡していった。だが全員ではないようだ。ちなみに俺とカッツィオももらった。


「これは何だ?」

「これは王が評価するに相応しい成果を上げた研究者に送るマントだ。俺は4着ほど持っているな」

「へぇ……意外と着心地良いな」


 深緑色のそれは金で縁取りがしてある。それ以外は無地なのに好感が持てた。


「カッツィオ」

「なんだ?」

「すぐにこれを何着でも手に入れて見せる」

「ああ、待っているぜ」


 俺たちは再び、固い握手を済ませて別れた。


 その晩、俺は真心たちの話し合いに参加するつもりはなかった。だが


「何の用だ」

「お前が来ないと真心が寂しそうなんだって」

「それでどうして俺が関係するんだ……」

「……言いたくないけどよ、真心はお前が好きみたいなんだ」

「はぁ?」


 くだらない、最初に頭に浮かんだのはそれだった。だが武人は真剣な表情だった。 


「だったらお前が真心の好きな相手になれば良いじゃないか」

「そうなりてぇよ! なりてぇけど……無理なんだよ」

「はぁ?」

「隆人も真心が好きなんだし……どうしようもないよ」


 知らねぇよ。本心からそう思っていると


「あのさ……虚偉」

「なんだ? 俺は別に真心に対して何の感情も無いんだが」

「……そうか。いやさ、お前が真心を手酷くふってくれたりしないかなって思ってしまってさ」

「……そもそも好きでもない。嫌いに含まれるから」


 マジか、と武人は呟いた。そして


「悪いことを言ったな……行こうぜ」

「ああ……武人」

「ん?」

「お前みたいな気遣いの出来る男なら真心以外にも選べるんじゃないのか?」

「かもな……何度か告白もされたし、ラブレターももらったけどよ……真心に心を奪われていたからな」

「心を奪われていた……? 今は違うのか?」

「今もだけどよ……若干、お前に嫉妬していたからな」


 こいつ、良い奴だな、と虚偉は思った。だがそれを口にせず、廊下を歩いて二人が待つ部屋に向かった。


*****


「陛下、お忙しい中お目通り叶い、心より感謝申し上げます」

「構わんよ、ウツロイ殿。それで今宵はどうしたのだ?」

「は……そろそろ、この国を離れようと存じております」

「む……? 理由を聞かせてもらっても構わないか?」

「は。本日、自分はカッツィオと共に陛下よりこのマントをいただきました。それに見合う成果を上げるための研究をこれからも続けるため、様々な地域に足を運びたいと思っております」

「……誰か、経理から金貨を持って参れ」


 虚偉は驚いた。話をしていた自分では無い、誰かに話しかけるようなことを王がするのか、と。だが虚偉の驚きは即座に解消された。


「どれほどでしょうか?」

「ウツロイ殿の旅だ……そうだな、金貨15枚を持って参れ」

「は!」

「……陛下?」

「私は旅をしたことがない。だからどれほどかかるか分からぬ……足りなければ顔を出せ」

「温情、感謝します。ですがこれ以上厚意に甘えるのは遠慮させていただきます」

「ふむ。ではギルドで仕事を稼ぐのか?」

「しばらくはそうなるでしょう」


 王は少し、自分の髭を撫でて


「ウツロイ殿……また、顔を出すのだな?」

「はい、そのつもりです。研究者として、になるかもしれませんが」

「構わない。存分に、旅をし、楽しんでもらいたい」

「楽しむ?」

「この世界とウツロイ殿の世界は別物だろう? ならば初めて見る物も多いだろう。色々と楽しめるだろう」

「……陛下」


 感謝の言葉も無い。それほどまでに俺は驚いていた。そして――


「行って来い、ウツロイ殿。そしてまた、研究発表会で、堂々と成果を見せてくれ」


*****


「――結構、愛着が湧いているのかもしれないな」


 自室として、王に与えられていた部屋を眺め、息を吐く。そのまま戸を閉めて廊下を歩く。すると


「アレは……月か?」


 空に浮かぶ三つの光る球、それを眺めていると凄く不思議な感覚だった。あんな幻想的なものを見た事は無い。


「まぁ、何にせよ旅立ちには関係ないか」


 ロマンチストなら、旅立ちを祝福しているとでも言うのだろう。そんな風に思いながら俺は城を出た。

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