召喚されたら色々ありまして④

「《バッファロー》がいたのは行幸だったかもな。ウツロイ、それとお三方が戦ってみろ」

「カッツィオ?」

「大丈夫だ。危険そうなら俺が助ける」

「信頼しているぞ、カッツィオ」

「ああ、任せろ」


*****


「隆人。お前確か蹴鞠部だったよな? 《バッファロー》蹴ってこい」

「だからサッカーだって。いつの時代錯誤だよ」

「――平安」

「合っているのが無性に腹立たしい」


 隆人は小さくため息を吐きながら剣を構えた。


「お前何のために蹴鞠をしてきたんだ!?」

「まず間違いなく《バッファロー》蹴るためじゃねぇよ」

「違いない」


 隆人は苦笑しながら剣を両手で握り、振り上げて振り下ろした。それはブン、と物々しい音を立てて――地面を斬りつけた。しかも斬れていない。少し地面の土が弾けた程度だ。


「ここは街道だから踏み固められているんだろうな」

「あ、ああ……うん、そうだよな。きっとそうだよ」

「動かない相手と戦った経験がないってのがかなりデカそうだけどな」


 顔を逸らす隆人と武人を眺め、嘆息する。そのまま虚偉はのそのそと近づいてきている《バッファロー》に掌を向けて


「五元素が一つ、万物を焼き尽くす炎よ。槍と化して、その威光と力を示し、我が敵を撃て、《ファイアーランス》」

「あ」

「お」

「え」

「……やり過ぎだ、馬鹿」


 カッツィオの言葉も納得だ。丸焦げとなった《バッファロー》が地面に倒れている。これじゃあ結構深くまで剥がないと食べられる部分は無さそうだ。


「ウツロイ、素材目的なら氷系の魔法か雷系、風系が良いと思うぞ」

「そうなのか……ちなみに光や闇は?」

「使えるのか?」

「なんとなく適当にやっていたら出来た。で、どうなんだ?」

「そうだな……いや、MPが少ない内は五元素が良いだろう」

「ん、分かった」


 とりあえず《バッファロー》を殺した際に、頭に浮かんだ『EXP+3』。アレは恐らく経験値だろう。そしてそれを貯めれば――レベルが上がるはずだ。

 そして今使ったMPは12,乱発は出来ない。45という数値が低いのは明確だった。だがそれを解消するために、俺たちはここに来ているのだ。いや、違う。俺は、だ。他の事情は何一つ聞いてはいない。

 虚偉は微妙な距離感を感じながら次なる獲物を探し、周囲を睥睨した。すると


「隆人!?」

「痛ぇ!?」

「《バッファロー》に轢かれてよく生きているな。正直驚いたぞ」

「驚いたじゃねぇよ!? 危うく死ぬかと思ったぜ!?」

「《視状》」


 嘘吐け、体力の半分も減っていないじゃないか。そんな風に虚偉は隆人のステータスを眺めていた。前回と同じ、剣士だ。コレがいつか、変化する時はあるのだろうか。そんな風に考えていると


「癒やしの光よ、痛みし者に安らぎを《ヒール》」

「……痛みが、引いたな」

「轢かれたのに引いたのか」


 武人の何気ない呟きに二人の表情が固まった。しかしそれに、虚偉は何の反応もしなかった。そして――虚偉は手を突き出して


「五元素が一つ、万物を焼き尽くす炎よ。球と化して、我が敵を撃て《ファイアーボール》」

「メジャーな魔法……なのか?」

「今のはメラゾーマではない、メラだ」

「いやまぁ雰囲気的にメラだったけど……ところで何に向けて撃ったの?」

「ん」


 そう言って虚偉が指差した先には焦げた地面と、その付近で怯えている羊のような生き物だった。外したのか、と隆人は思ったが


「火力があり過ぎたのか一瞬で燃え尽きたな」

「カッツィオ、どうしたら良い?」

「だから炎は使わない方が良い。風か氷にしとけ」

「分かった……五元素が一つ、万物を凍てつかす氷よ。槍と化して我が敵を撃て《フリージングランス》」


 氷の槍が羊のような生き物、《シープ》の頭を刺し貫いた。そこから流れ出す血を眺めると少し、気分が悪くなった。


「虚偉くん、大丈夫?」

「……お前こそ、大丈夫なのかよ」

「あんまり」


 真心はそう言って苦笑した。その後、しばらく色々なモンスターと戦い続けた結果、レベルは結構上がった。


『本読虚偉 男 17歳

職業 魔法使い

レベル 6

HP 40/40

MP 97/141

STR 15

INT 78

VIT 11

AGI 24

LUC 41』


 これを強くなったと言うかどうかは人次第だろう。まぁ、俺としてはMPがあると魔法の研究にも使えるから強い弱いの一言で判断できる内容ではないが。


「虚偉、次は魔法使わないでくれよ」

「え?」

「次は俺が行きたいしさ」


 そう言って武人は地面を蹴った。そのまま新たにこちらに向かってきていた《バッファロー》の頭に蹴りを放った。

 レベルが上がっているからか、《バッファロー》のお世辞にも軽いと言えない体が揺れる。しかし死んでいない。だからなのか、追撃としての拳が《バッファロー》の頭に向かい――そして、角に激突した。


「痛ぇ!?」

「馬鹿だろお前」

「なんで素手で殴るんだよ」

「さすがにその怪我を治す気にはならないかな」

「なんでそんなにお前ら酷いの!?」


 武人は血が出ている手をひらひらさせながら、自分が倒した《バッファロー》を眺めていた。しかし


「私は戦闘能力が無いのよね……」

「大丈夫だって、真心は俺が護るよ」

「いや、俺が護るって」


 好きにしろ、と虚偉は心から思った。だがそれを口に出さず、今回の魔法の成果を研究に生かそう、と考えていた。


*****


「ウツロイ、とりあえず《ファイアーボール》の高速魔法化の詠唱だ」

「元の詠唱は確か『五元素が一つ、万物を焼き尽くす炎よ』が炎の魔法に、そして『球と化して我が敵を撃て』が形状と目的の指定だったな?」

「ああ。だから詠唱で必要なのは三つのフレーズだ、と俺は判断した」


 カッツィオは黒板に書き込んでいく。そこに書かれたのは元となる詠唱と、それを区別する番号。そして――三つの文字。属性、形状、目的設定。そしてそれを大きく囲んで、詠唱に、と書いてある。


「ウツロイ、どんな詠唱が出来る?」

「シンプルにそのまま、炎、球、敵を撃て《ファイアーボール》……コレじゃ、詠唱には鳴らないのか」

「ああ、それは俺も試してみた」


 なるほど、と思いながら少し考えて


「炎は球となり、的を撃つ《ファイアーボール》」

「おお!? 出来たのか!?」

「……カッツィオ、まだだ。コレじゃあ詠唱省略にしかならない。だからもっと短く、速くしよう」

「ああ、そうだな……だが、コレは成果だって胸を張れるぜ?」

「かもな……いや、そうだな。今は素直に喜ぶか」

「ああ、そうしろ」


 カッツィオは笑い、俺も笑った。すると


「ウツロイ、記念に飲みに行かないか?」

「飲みに……酒だよな? 俺はまだ未成年だから飲めないんだが」

「それはお前の世界の話だろ? この世界なら15歳から飲めるのさ」

「へぇ」


 郷に入っては郷に従え、と言う。だから仕方ない、と自分に言い聞かせつつ、初めての飲酒に期待を持ち――


「俺、もう酒は飲まない」

「そんなに不味かったか?」

「いや、俺の体が受け付けない感じだ……」


 匂いだけで無理だった。だから店主が出してくれた果汁の飲み物が涙が出るほど美味しく感じた。


「なんだ、そんなに美味しいのか?」

「酒が飲めないだけだ……カッツィオ」

「ん?」

「ありがとう。この世界に来ても良かったと思えるぜ」

「……酔っ払いの戯言と考えておこう」

「ありがたいな。素面じゃ恥ずかしくて言えないぜ」


*****


 その日の晩は話し合いには行かなかった。まぁ、城にいなかったからだが。


「どうして来なかったの?」

「城にいなかったからだ……そもそもなんで来て欲しいんだよ」

「え……?」


 俺は何故、真心が俺をそれほどまでに気に掛けるのか、分からなかった。

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