召喚されたら色々ありまして③

「えっと、初めましてウツロイ様。私はカッツィオと申します」

「初めまして、カッツィオさん。カッツィオさんは魔法研究をなさっていると伺いました」

「あ、はい。研究テーマは高速魔法です」

「速く発動できる魔法、と言うことですか?」

「はい」


 それ、俺昨日できたんだけど、とは言えなかった。だから少し頬が引き攣っているかも知れない、と思いつつ


「どのような方法を使っているのでしょうか?」

「え?」

「え?」

「そんなことを気にする方は初めてです」

「そうなのですか?」

「ええ。成果を見せろ、とばかりで」

「過程の方が重要なんですが……」


 いや、それは数学だけか? そんな風に思っているとカッツィオさんは俺の手を取り、


「分かるんですか!」

「分かりますよ……カッツィオさん」

「私の研究は、端的発動を可能とする魔法プログラムです」

「端的発動……? きっかけを与えれば発動する魔法ですか?」

「そこまで分かるのですか?」


 そして15分後


「なるほど、言葉キーワードを設定し、それを使う、と。面白いな」

「確かにこれは面白いな……カッツィオが研究者なのも理解できる」

「ウツロイもそう思うか!」


 紙に書き記されているそれを眺め、テンションが上がるのが止められない。そのまま二人であれこれ話し合っていると


「高速魔法の実験をするためにMPが必要なのだが……ウツロイのMPはどれくらいなんだ?」

「多分多くないな。45だ」

「それは……魔法使いとしては低いな」


 この時、虚偉は自分のレベルを口にしなかった。だからこそ、カッツィオは少し言葉を選んだのだ。


「とりあえずはMPのコストが低い魔法を高速魔法化するか?」

「え? 魔法を高速魔法化? 高速魔法を作るんじゃないのか?」

「――そうだな。高速魔法を先に、それを基盤ベースに魔法を高速魔法化するのはどうだ?」

「ウツロイが協力してくれるならいける気がするな」

「奇遇だな、俺もカッツィオが手伝ってくれるのなら作れる自信があるぜ」


 握手して――今日はここで別れた。だが、俺もカッツィオもそこで終わるつもりはなかった。明日は研究成果の話し合いからになるだろうな。

 そしてその晩、虚偉は高速魔法について色々と考えていたのだが集中力を乱す


こんこん


 控えめなノックの音に顔を顰めつつ、扉を開ける。するとそこに立っていたのは予想通りの


「今晩は、虚偉くん。今日の報告会の時間だよ」

「……あぁ、そう」

「今日は虚偉くん、一緒じゃなかったからね、何があったのか効きたいな」

「色々話せる相手がいて楽しかったな」

「え!?」

「なんで驚いた?」


 真心は驚愕の表情のまま口をパクパクさせている。まるで信じられないものを見るような感じだった。


「虚偉くんにそんな人が出来るなんて……もしかして、女?」

「いや、男だ。あいつなら楽しく話せる」

「そうなんだ……私たちは?」

「五月蠅い」

「ええ!?」


 そして扉を開けると


「遅ーよ」

「部屋で一人今日の続きをする予定だったのだが……どうして連れて来られたんだ?」

「毎日話し合うって言ったじゃねぇか!?」

「知らん」

「聞いてないか」

「忘れてるんでしょ?」

「かもな」


 虚偉の言葉に三人が深いため息を吐く。すると隆人は少し笑って


「俺たちさ、明日から街の外に出てレベル上げするんだけど二人はどうするんだ?」

「私は行きたいな。MPが少ないから練習もあんまり出来ないし」

「俺もだ……だが少し約束があるからな……」


 カッツィオと色々考えるという約束がある。そう思っていると扉が遠慮がちにノックされた。そして


「ウツロイ、いるか?」

「カッツィオ!? どうしてお前が?」

「一応私は王に仕える研究員だからな。少し、時間良いか?」

「ああ」

「お前、レベルが低いからMPが少ないらしいな。明日、レベルを上げに行かないか?」

「良いのか!?」

「私とお前の仲だ、遠慮するな」

「ありがたい」


 そして状況が分からない三人は顔を見合わせ、戸惑っていた。


*****


「それで? どんな結果だ?」

「ああ、こっちは文字に意味を持たせる魔法を使った間接的高速魔法を作ってみた」

「さすがだな、カッツィオ。俺も負けていられないな」

「ウツロイはどうだったんだ?」

「俺は言葉ワードだったな。ラテン語が何故か使えるしな」

「ラテン語? それがお前の世界の言葉か?」

「その一つだ」


 カッツィオはそう言い、ふと困ったように顔を顰めて頭を掻いた。そして


「ウツロイ」

「なんだ?」

「帰りたくはないのか?」

「いや、ないけど」

「なら良い」

「「「帰りたくないのかよ!?」」」

「……逆に聞くけどお前らは? 異世界ライフ満喫しているじゃないか」

「……帰りたくはないけど……まだ、だよ」

「なら良いか。帰っても面倒なことが多いだろうしな」

「こっちだと?」

「きっと楽しいことがあるさ」

「そんな無感情な目で言われても信憑性なんて一切無いんだけど」


 カッツィオが聞きながら街の外に足を進めようとして――ふと止まった。そして


「ウツロイたちはギルドに登録しているのか?」

「ギルド?」

「ああ。ギルドってのは~~~(ありきたりな説明)~~~なんだ」

「つまりモンスターを倒した記録をカードに登録し、それを持って行ってお金をもらうのか」

「なるほどな」


 素材に関しては売るも良し、使うも良しらしい。ぶっちゃけ魔法に使えるのならなんだって良い。そんな風に思いながら虚偉は少し、頬を緩めていた。楽しい、と思っていたのだろう。だがそれに自分から気付いてはいなかった。


「カッツィオ」

「なんだ?」

「そのギルドで俺たちは何をしたら良いんだ?」

「……いや、今日は登録、止めておくか?」

「俺はどうでも良い。しかし――モンスター、か。不思議な感じだな」

「不思議?」

「俺たちの世界にはいなかったからな」

「なんだ、異世界人だったのか。言われてみれば召喚された人間だって言われたな」

「忘れていたのか?」

「研究中に呼び出された不満が大きかったからな」


 なるほど、確かにそれは不満が産まれるな。


「カッツィオ」

「気にしちゃいないさ。お前と出会えたからな」

「そうか。俺もだ」

「あのよー、二人で盛り上がっているところ悪いんだけどさ、結局二人の関係って何なんだ?」

「俺たちの関係か?」

「そりゃもちろん」

「「親友だ」」

「出会って二日なのに!?」

「出会った時間が重要なのか? 一目惚れって言葉もあるじゃないか」

「言われてみればそうだけどさ……それでも、虚偉くんおかしいよ」


 知ったことか、俺は俺だ。そう思いながら歩いていると


「関門?」

「ああ。一応犯罪者が入ってこないように、そして出て行かないようにってわけだ」

「一応?」

「嘘を吐かれても見抜けないんだよ。ぶっちゃけて言えば何にも分からないんだ」

「……そうか。それなら仕方ないかもな」

「後は商人に関係する物もあるが……それは関係ないだろうな」

「ああ、しばらくは関係なさそうだ」


 そして何事もなく、関門を通り、町の外に出た。外はもはや、日本で見ることは叶わないような草原が広がっていた。

 風が吹くだけで草木が揺れる。太陽の光がさざ波のように流れ――幻想的な風景を創り出していた。そして――


「何だあれ!?」

「ん? あぁ、アレか。《バッファロー》だな」

「《バッファロー》……、俺たちの世界にも同じ名前の生き物がいたな。食えるのか?」

「ああ。大衆食堂とかで結構使われている奴だぜ」

「そうなのか?」

「何を隠そう、アレを焼いただけのが凄ぇ―美味いんだ。一度お前にも食わせてみたいんだ。親友としてな」

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