第4話 心のかけらで見た記憶
【君のおかげで世界が助かる】
【君のおかげでアリスも助かる】
【君のおかげでぼくらも助かる】
【ありがとう】
【ありがとう】
【でもまだ油断は禁物だよ】
【アリスの心はまだまだ半分】
【彼女が彼女に戻るためには】
【君の力が必要なんだ】
【だから負けないで】
【くじけないで】
【最後まで君の力がいるよ】
【君は候補だったから】
【この世界の希望の1人】
【だから】
【アリスを知ってほしい】
【アリスの心を取り戻すたび】
【君にアリスの世界を教えてあげる】
ここはどこなのか。
自分の記憶の中ではないとジュウクは思う。
なぜならば、そこに自分の姿がないから。
でも、誰かの姿は見える。
あれは、そう、アリスの後ろ姿。
もしかしてこれは、取り戻したアリスの心にある記憶か。
どこからともなく聞こえてくる歌の者たちが言った「アリスの世界を教えてあげる」とはこういう事なのかとジュウクは感じながら、その姿をながめていた。
アリスは1人で座っていた。
近くには誰もいない。
白い服を身にまとい、無言で広大に広がる草原に1人たたずんでいた。
そこに背後に現れた男が1人。
シルクハットの男。
リィノの姿。
全身黒色のスーツで孤独に座る少女アリスを2歩ほど下がった背後から見ている。
「あなた誰?」
振り向かずにアリスは問いかける。
「君は知っているけど知らない存在」
「何それ…その問いかけ不思議の国でよく聞いた」
まだアリスは振り向かない。
背後にいる相手を信用していないのだ。
「私、あなたが誰か知らないし振り向きたくない」
アリスの心は閉ざされている様子だった。
いつの頃かは分からないが、ついさっき眠る前に出会ったアリスとは印象が違う。
過去に一体何があったのだろうかとジュウクは思う。
「君は知っているはずだよ?その証拠にボクは君を知っている」
「本当に?不思議の国でも初対面なのに同じ事言う子たくさんいたよ」
「君は…本当にひねくれてしまったみたいだね…そんなに時間が過ぎていたのが悲しかった?帰ってきたら何十年も時が過ぎていればそれも仕方が無いのかな」
リィノの言葉にアリスはやっと振り向いた。
少し怒っている様子だった。
「あなたはどっちなの?」
「…君の思ってるのとは違うよ」
「違うってどういう事?」
「だから君が今ここにいるように仕向けた人達とは無関係だよ…その証拠にボクは彼の大切にしていた帽子を君に見せてあげる事ができる」
アリスの頭上にふわりと何かが乗せられた。
それは、あの帽子だった。
彼女の良く知る存在がよく被っていた帽子。
「なんであなたがこの帽子を持っているの?」
「君を元の世界に送り届けた後、君の心が不思議の世界に散らばったのに気づいた彼はそれを知らせる為に君の世界へ行こうとして…どうなったと思う?」
「どうなったの?」
彼の使い崩された帽子を握るアリスの手が強くなる。
リィノは肩をすくめた。
「どうもしないよ?」
「どうもしないよってどうなったの?」
「彼はアリスの心が元に戻らない限り不思議の国から出る事は叶わない」
「私が、会いに行けばいいの?」
「心が半分どこかに散らばった君では彼には会えない」
「…元に戻せれば会えるの?」
アリスの言葉にリィノは眉間にしわをよせる。
「会えるよ…でも心を取り戻すには君1人ではどうにもならない」
協力者がいるんだと、リィノは言う。
その言葉にアリスは肩を落とす。
「協力者なんて、どうやって見つけるの?」
「そうだね、戻ってきたら数十年の月日が流れてて君を知る者は皆大人になってしまった」
アリスは何度か不思議の世界へと行き、その世界の不思議な事と対峙して、その世界で苦しんでいた者を救ったのだ。
そして、その世界の者を救うたび、当時7歳だったアリスの心にほころびが生まれて行く。
幼すぎたのだ。
アリスは幼すぎた。
不思議の世界を救うには幼すぎた。
みんなもアリスを頼りすぎたのだ。
その結果、アリスの心は不思議の世界に散らばった。
不安定になったアリスは不思議の世界への通行を許されない存在になってしまったのだ。
でも、不思議の世界はアリスを求めている。
アリスに会いたいと願っている。
アリスの笑顔に会いたいと。
「ボクが見つけれるとしたら?」
リィノの言葉に、アリスの目は大きくなる。
今、目の前の男は何を言ったのか。
協力者を見つけれると、言ったのだ。
どうやってできるのか。
アリスの頭の中にたくさんの疑問が浮かぶ。
「協力者を探すにはこの国に君がいてはいけないんだよ…君をこんな寂しい場所に押し込んだ奴らがいる国にはね」
リィノはそう言うと、アリスの肩に右手を置き、左手は前に手のひらをかざして何か言葉を発している。
全て言い終わった後、アリスとリィノの前に白い扉が浮かび上がる。
「…この扉はどこにつながってるの?不思議の国?」
「いや、違うよ…君はこれから選択しないといけない」
「選択?」
白い扉はゆっくりと開く。
その扉の先には、アリスが今住む環境とは違う風景が見えている。
「君には2つの道がある。アリスの心を半分失ったまま、知っている人は皆大人になってしまった世界で閉じ込められて寂しく生きるという道と」
「…もう1つの道は?」
リィノの手は、白い扉の先に広がる世界をゆっくりと指をさす。
「この白い扉の先の国へ行って、アリスを取り戻す道」
「私の心を取り戻す…道?」
「そのかわり、この扉をくぐったら君は心を完全に取り戻すまでアリスを名乗れないし、ボクの親戚のフリをして生活しないといけないし、今使用している言語とは違う言語で生活しないといけない…それでもいいかい?」
提示された2つの道。
アリスにとって選ぶ道は当然…
「この扉をくぐる道を選ぶに決まってるじゃない。こんなつまらない世界で自分の心を失ったまま生きてくのは嫌!」
アリスは一歩前に出る。
白い扉へと向かう。
それを見て、リィノは笑顔を見せた。
「良い決断だ!心を半分失ってても君はやはりアリスだね」
アリスの手を取ったリィノも白い扉へと歩を向ける。
「…ところで、あなたは誰?」
「ボクの正体か…ボクは君と出会った時は卵だったけど、君のおかげで、アリスのおかげでボクは卵のままの姿から今の姿に産まれる事ができた…これでボクが誰かわかるかな?」
「あなたは…エッグで…もしかしてハンプティ・ダ…」
彼女が最後まで言い終わる前に、白い扉の中へと2人は吸い込まれる。
アリスの心を取り戻す為に。
新しい世界へと向かう扉をくぐり抜けた。
あたりが白い世界になる。
【今日手に入れたアリスの心のかけらで見れるのはこれだけ】
【2人の出会いを知って君はどうだった?】
【君は協力者に選ばれた】
【だからお願い】
【最後まであきらめないで世界を救って】
【アリスを救ってあげてくれ】
【アリスを救えば君の望みも叶うから】
【一緒にいる赤い子も救ってあげてね】
【君は…】
歌は最後まで聞くことはできなかった。
多分目が覚めるのだろうとジュウクは感じていた。
自分は何をすべきなのだろうか。
起きたら何からするべきか。
考える事はいっぱいある。
ジュウクはまだ自分の本当の望みは何かは分からない。
アリスの心のかけらを集めきれば、思い浮かぶのだろうか。
希望を抱きながら、ジュウクはもうじき目を覚ますのだろう。
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