第11話 死神が望むもの
あれから二カ月が経った。
街並みはナーゴのお蔭もあって、かなり広い範囲で綺麗な建物が並んでいる。
そこで以前とは違う風景に行き当たる。
そう、沢山の人が行き交いしているのだ。
「とても素敵な街になってきましたね」
ベランダから城下を眺めるリリーが俺に話し掛けて来る。
「そうだね。とても活気のある街になったね」
俺は思うがままの気持ちを伝えた。
すると、彼女は更に話を続けてきた。
「ビビトの街とメソ村、ルアン村も死神様の国に加わりたいとの事です」
まあ、現状としては上納も無しだし、ミルカの街の事を考えると加わりたくもなるよね。
「受け入れても良いと思うよ」
俺が素直に了承すると、リリーもにこやかに返答してきた。
「そうおっしゃって頂けると思ってました」
そんな幸せな時間を過ごしていると、アマリアが来客だと伝えてきた。
来客とはいったい誰だろう。まあ、行ってみれば分かるか。
そんな事を考えながら、リリーを連れて謁見の間に瞬間移動で転移する。
転移した先には、既にエルマエルが我が席のように王妃席に座っていた。
何度も言うけど、お前の椅子じゃないからね。
声にしても仕方ないので、溜息を一つ吐いて自分の椅子に腰を下ろす。
暫くすると、アマリアが客人を伴ってやってきた。
その客人とは美しき女性だったのだが、これがまた飛びぬけて綺麗な女性だった。
年の頃は二十歳くらいだろうか。
客人は王座の段の手前まで来て仁王立ちしている。
なんとも見た目と違って風変りな女性らしい。
「あなたはどちら様ですか?」
黙っていても話が進まなさそうなので、俺の方から尋ねてみる事にする。
すると、その女性は仁王立ちから片膝を突く姿勢をとった。
「私はトランド王国で勇者と呼ばれる者です。名をフランチェスカと申します。姓はございません」
ほう、トランド王国から勇者のお出ましらしい。という事は一悶着あるのだろうか。
まあ、まずは話を聞いてみよう。
「それで本日は如何いった用件でしょうか」
彼女は逡巡した後に、おずおずと話し始めた。
「私はトランド国王の命により死神様を葬りにまいりました」
やはりそういう話だよね
しかし、彼女は戦う素振りも見せずに話を続けた。
「ですが、この城下を見て、あなたを見て、考えが変わりました」
一体どう変わったのだろうか。この城下にそれ程の何かがあったのだろうか。
そして、彼女は何を望んでいるのだろうか。
そんな俺の思いを余所に、彼女はこれまでより大きな声で自分の思いを告げた。
「私を家臣にして下さい。そして、トランド王国を討って頂きたい」
ふ~む、これはまた突拍子もない話になった。
俺は驚愕しつつも、如何したものかと考えていたが、彼女の本意を聞くべきだという答えに辿り着いた。
「何故、トランド王国を討ちたいのですか?」
「あの国は腐っております。故にあの国の王族や貴族は滅ぶべきです」
気持ちは分からないでもないが、些か過激すぎるような気もする。
「あなたが本心を話してくれたようなので、私も本心で語りましょう」
こうして、俺が死神でありながら不毛な戦いや不要な死を求めていない事を告げる。
更に、ここを拠点に自分の国を作る積りだが、侵略戦争を起こす事はしないと話した。
それを聞いた彼女は、信じられないといった表情だったが、暫くすると無言で頷いてくれた。
「死神様の想いは分かりました。しかし、この地に国を興すとなれば必ず彼の国との争いになりましょう。であれば私としても遣る事は一つです。先程の家臣の話を再考して頂けませんでしょうか」
どうも、俺の想いは伝わったが、彼女自身の考えは変わらないようだ。
まあ、目的は違えどその過程は同じなので、受け入れる事にした。
「分かりました。但し、家臣ではなく仲間として受け入れましょう。と言うのもこの城には幾人かの人が働いていますが、全員が家臣や侍女ではなく私の仲間ですから」
「有り難き幸せ、微力ながら全力でお力になりたいと思います」
どうやら受け入れてくれたようだ。
俺の隣ではエルマエルが難しそうな顔をしている。
この時点では、何故彼女がそんな顔をしているかは分からなかったが、一週間後にはその理由がとても拙い状況となって降り掛かってくるのだった。
そう、あれから一週間後だ。
突如、これまで音信不通だった部署から連絡が入った。
『輝人、拙い事になった』
突然のしずくからの念話に驚いたが、その話の内容で更に驚愕することになった。
『正義神の会社『神罰』からクレームが入った。今、本社で審議中』
おいおい、何でまたそんな事になってる?
『勇者を懐柔した。それに輝人がやってる事が『神罰』に対する越権行為』
要は、俺が勇者を仲間にした事と、人を救ってばかりいて誰も滅さない事がお気に召さなかったようだ。
『処で、処罰が下るとどうなるんだ?任期延長か?』
俺の問いにしずくは暫く答えなかったけど、仕方なさそうに話しだした。
『恐らくクビになる』
行き成り解雇かよ。どんなブラック企業だよ。
『クビになったら、あの世に強制送還か?』
『死ぬまでは送還されない。ただのプー太郎になる。死神の神威も無くなる。大鎌も無くなる。直ぐには無理だけど、そのうち後釜がいく』
プー太郎かよ...... てか、神威が無くなったら唯の人と変わらね~じゃん。
でも、人でもないし、俺ってどんな立場だ?
死んでる事を考慮すると幽霊とかわらんよね。
『能力も無くなるのか?』
『それはテルトが得た力、だから残る』
ほう、力は残るのか、それなら何とかなるかもしれないな。
確かに神威を解放しなくても能力は使えたからな。
ただ、神威が無くなるという事は、全力の力が出ないから、力が半減するのは確かだ。
あと、後釜という事は、死神が来るんだよな?
それは参ったね~。
行き成り襲われても困るしな~~!
まあ、成るようになるか。
色々悩んでも仕方ないよな。
『決定が下された』
はや!
『クビだって』
初めて聞いてから、まだ十分も経ってないんだけど、もうクビか!
今更文句を言っても始まらんよな。
抑々が俺の行いの所為だし、今更沢山の人を殺したくもないし、結果オーライなのかもしれない。
『じゃ、頑張って』
その一言でしずくは終わらせた......
こんなに酷い会社って生前にも聞いた事ないわ!
俺が悪態をついていると、その態度が気になったらしいエルマエルが、俺に尋ねて来る。
「如何したの?」
う~~~ん、本当の事を言っても大丈夫なのだろうか?
まあ、隠しても分かる事だし、正直に話すか。
「あのさ~、死神の会社をクビになった」
「やっぱりね!勇者を仲間にした時に、こうなると思ったわ」
エルマエルはお見通しだったようだ。
その理由をとっても聞きたい。
「勇者を指名してるのは『神罰』っていう会社なんだけど、あそこって直ぐに訴訟を起こすのよね。それで多くの使徒達がクビになっているのよ」
今始まった事ではないのだね。完全なクレーマーな訳だ。
「それでどうするの?」
「どうするって、能力は使えるからこのまま続けるよ?」
「うちの会社にこない?それで私と
ご遠慮させて頂きます......
なんだよ夫婦使徒って、聞いたこと無いわ。
こうして、俺は死神会社を首になり、唯のプーとしてこの国の国王になったのだった。
あれから半年、俺は能力の向上を目指して日々の訓練に励んだ。
夜はエルマエルに襲われる事件もあったが、それは割愛しよう。
その成果もあって、今ではあの当時の神威を解放した時よりも強くなっている。
そんな俺が現在いる場所は、城の地下倉庫に作られた作戦指令室だ。
幾度となく攻めて来る敵に対して防衛を行っているうちに、俺はこの場所を見付けてしまったのだ。
当初はエルマエルを含め全員が土下座状態だったが、俺は怒る事もせずに皆を許した
まあ、国や俺の事を想ってやってくれた事だし、当然だよね。
「敵軍二万、間もなく我が領内へ侵攻してきます」
アマリアが状況を報告してくる
「領内の民衆は神都に非難し終わってるな」
「はい。全領民が避難完了してます」
俺の問いにアマリアが再び答える。
「テルト様、ハプーンミサイルで迎撃しますか?」
「いや、あれは最終手段だ」
今度はリリーが攻撃手段に関して進言してくるが、俺は否定する。
だって、あれを撃つとみんな女体化するんだぞ。
「しかし、どうやって防衛しますか、二万の敵だとゴーレムでも対応不可能です」
うぐぐぐ、痛い処を突かれた......
「わ、わかった......ハプーンミサイル発射用意」
「ハプーンミサイル発射用意」
俺の指示をリリーが復唱する。
「ハプーンミサイル発射用意」
すると攻撃オペレータであるロロアが更に復唱する。
「発射秒読み開始」
リリーが発射カウントダウンを命じる。
「発射五秒前、四、三、二、一」
「ファイア」
「ハプーンミサイル、ファイア」
リリーの発射合図に合わせて、ロロアが発射ボタンを押す。
城の東側、ハンター
本当は女体化効果を改善する予定だったが、残念ながら間に合わなかった。
正面スクリーンには、ミサイルからの映像と望遠カメラからの映像の両方で敵軍の姿が映し出されている。
「着弾しました」
ロロアから元気な声が飛び出す。
「状況を報告して」
即、リリーがアマリアに指示を飛ばす。
「敵の損耗率八十パーセント、その殆どが女体化しました」
なんて酷い結果だ。
アマリアの報告を耳にした俺は嘆いた。
「敵軍は後退します」
その報告を聞いた俺は、戦闘終了を告げ作戦指令室を後にした。
俺が今いる場所は、城下を見渡せる南側ベランダだ。
綺麗な、本当に綺麗な街並みだ。
これを造ってくれたナーゴには、どれ程の感謝を送っても足らないだろう。
そんな夕日に照らされた城下を眺めていると、後ろから声が掛かる。
「これからトランド王国はどうするかしら」
俺がそれに答えるまでも無く、更に後ろから遣って来たリリーが口を開く。
「きっと、懲りずにまた遣って来るでしょう。でも、また返り討ちにするだけです」
まあ、そうなるだろうな~と答えようとしたが、別の声が割って入った。
「もう来ないと思うよ」
何処かで聞いたことのある声に視線を向けると、そこには見知った顔があった。
「何やってるのよ輝人」
「久しぶりだね、ヒカル」
そこには同期入社であるヒカルの姿があった。
恐らく、後釜の赴任は彼女だったのだろう。
「どうしてそう思うんだい?」
疑問に思った事を俺は口にした。
「だって、あの豚共は私が全員召しちゃったから」
ぐはっ、なんて女だ。以前はこんな女じゃなかったのだが......
「そんなことより、首になったって聞いたわ。何を遣ってたのよ」
口調程に憤慨していなさそうなヒカルは、俺に尋ねてきた。
「ちょっとな」
「ちょっとって、なによ!それにあの酷いミサイルは何?殆どの兵隊が女体化してたわよ。この世界を全て女にしてハーレムでも作る積りだったわけ?」
ぐはっ、あ、あ、あれは俺の望むところではない......
「結局は何がしたかったわけ?」
「そうだな~。俺はこの世界で理不尽に人が死ぬのが嫌だっただけだ。だから、みんなが幸せに暮らせる優しい国を作りたかっただけさ」
「ふ~~~ん、輝人らしいわね。分かったわ。あなたはそうやって幸せな国を作りなさい。私は理不尽な死を作り出す者達を召し上げていくから」
これからも俺の国造りは続いていく。そして、いつかきっとこの大陸全土を幸せな俺の国にしてみせる。
こうして、現死神と元死神がタッグを組んで、この世界に幸せを振り撒くのだが、この二人の死神は、死神改め幸福の神としてこの世界に君臨する事となるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これまで読んで頂き、本当に有難う御座いました。
本作品につきましては、私の頭の中でストーリーが完結してしまい。新たな展開が見えなくなってしまいました。
その為、大変恐縮ですが、一旦はここまでで完結とさせて頂きます。
もし、この作品で新たな展開を見付ける事が出来た日には、新しい作品として再度投稿させて頂きます。
大変申し訳ありませんでした。
そして、本当に有難う御座いました。
死神の望む国 夢野天瀬 @yumeno_mirai
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