第8話 守りたいもの


 死神城が要塞化されて二カ月。


 「凄い、凄いとは思ってましたが、この光景は言葉では言い表せませんね」


 私の双眸には、美しい街並みが映ってます。

 死神城の南側には縦横に張り巡らされた街路があり、その道に沿って大きな家々が沢山並んでいます。

 この街路は死神であるテルト様が丹精込めて作られたもので、立ち並んでいる家々はナーゴ様が作られました。


 ナーゴ様は創作神様の使徒だと聞いています。

 流石に創作神と言うだけあって、その創作っぷりは半端なかったのですが、テルト様から兵器や武器の創作を禁止されて、暫くは猫耳と尻尾と精神を落ち込ましてました。

 でも、彼から街の作成を頼まれると、その猫耳や尻尾のように街を立ち上げたのです。


「リリー、テルト様がサロンに入りましたよ」


「じゃ、お茶をお持ちしましょうね」


 アマリアの言葉に、私はサービングカートの上にお茶や菓子を乗せてサロンに行く事にしたのです。


 そう、私はリリー、ロロアとルルカの姉であり、ミリアの長女です。

 母の事はとても悲しくて、思い出すと今でも泣いてしまいそうです。

 それと同時に、母を死に至らしめた人達を憎んでしまうのです。こんな私はきっと性格の悪い女なのでしょう。

 でも、母は前夜にテルト様と愛し合ってたのだけが、私の唯一の慰みになります。きっと母は女としての喜びを得たと思うのです。流石にこの齢になると、何をしていたかなんて、無論理解しています。

 そして、ゆくゆくは私も母のようにテルト様から愛して頂きたいと思ってます。


「失礼します。テルト様、お茶をお持ちしました」


「ああ、悪いね。いつもありがとう」


 テルト様は何時ものように、嬉しそうにお礼を言ってくれます。


「街造りは順調そうですね」


「うむ。流石は創作神の使徒といった処だね」


 満足そうな返事が返ってきました。


「それにしても、あの『ごおれむ』というのは凄いですね」


「あ~、ゴーレムね。あれのお蔭で物凄く効率的に街が出来上がってるよね」


 何を隠そう、兵器や武器の創作を禁止されて、街を造れと言われたナーゴ様は、まず始めにゴーレムという成人男子サイズの人形を作ったのです。

 そして、沢山のゴーレムが何処からともなく材料を持ってきて昼夜を問わずに街を作っているのです。


「これで、街の方はひと段落ですね」


「そうだね。ただ、そこに住む住民がいないんだけどね」


 国民募集はテルト様の悩みとなっているようです。

 でも、そんな事より不穏なこの国をなんとかして欲しいのですよね。


 折角、テルト様と和やかな時を過ごしているのに、ポケットのアイテムが邪魔をしてきました。


「それじゃ、仕事に戻りますね」


「ああ、ありがとう。美味しかったよ」


 こうして、サロンを後にした私はアマリアにコールした。


『何事?』


『リーダー、敵が来たわよ』


 無粋な輩がまたノコノコやって来たようですね。返り討ちにしてあげるわ。

 そんな事を思う私は、携帯電話をポケットに戻して、作戦指令室に急いで向かうのでした。







 ここは死神城の地下にある食糧庫の一つを改造して作成された作戦指令室です。

 この場所を作る提案をしたのはエルマエル様、作ったのは勿論ナーゴ様です。

 ナーゴ様はテルト様に心酔しているので、懐柔するのが大変だろうと考えたのですが、ローストチキンで簡単に転がり込んできました。


 私が部屋に入るとクロエが「リーダー遅刻!遅刻!」と騒いでます。

 苦笑いをしながらそれを黙殺し、アマリアに状況説明をお願いする。


「敵は死神領と半日の距離です。まだテルト様の結界範囲には辿り着いていませんが、街道からこちらに向かう一本道を八百の兵で進んで来ています」


「今回は多いわね」


「流石に向こうも本気になってきたのかと......」


「いいじゃない。やっちゃいましょう」


 私とアマリアの会話を聞いていたエルマエル様が「GO」の指示をだした。


「ロロア、戦闘ゴーレムの出動準備」


「デニス、対人ミサイル用意」


「「アイアイサ―!!」」


「でも、エルマエル様、私達が倒して良いのですか?ノルマがあると聞いてますが」


「無理、無理、無理、もう果たせる量ではないわ。諦めてるからもういいの。ちゃっちゃと遣っちゃって」


「はい、じゃ遠慮なく。デニス、ファイアー!!」


「ヤー!対人ミサイル、ファイアー!!」


 やや、暗い影を落としたエルマエルを横目に、ミサイル攻撃を開始した。


「着弾を確認しました。敵の被害は大」


「よし!」


 死神領地外に、ナーゴ様の手で密かに設置された防衛設備からミサイルを発射した私達は、正面スクリーンで状況を確認する。


 スクリーンには、ぶっ倒れる者や慌てて身体を確認する者、お互いに身体を触り合っている者達が映し出されている。


 あなた達は変態ですか!?


 そんな身震いするような光景を眺めていると、アマリアが攻撃結果を報告してくる。


「行動可能な敵の数、百」


 思ったより残ったわね。でもミサイルをもう一度撃ち込む程でもないわね。


「ロロア、出撃させて!」


「はい。戦闘ゴーレム出撃します」


 作戦指令室のシステムデスクにつくロロアが、タッチ型操作パネルに指を走らせる。


 この作戦指令室は、三層のデスク構成となっていて、スクリーン直ぐ前の第一層に攻撃オペレータが座り、第二層は状況確認や連絡オペレータであるアマリアが座っている。

 三層目は勿論指令席であり、現在はエルマエル様と私が陣取っている。


 正面モニターでは、戦闘ゴーレムからタコ殴りに遭っている敵騎士の姿が映し出されている。


「状況を報告して」


「はい。戦闘不能に落ち至ったもの六百二十三人、その内、ミサイルの効果でニューハーフ化したもの二百十五人、完全女性化したもの四十一人、精神女性化したもの六人、負傷者多数、ただし重傷者ゼロ、死者ゼロです。残りは逃走しました」


 私の命令でアマリアが状況を報告してきたのだけど、思ったより女性化した者が多かった。あまり遣り過ぎるとこの星は女性化されてしまうから、気を付ける必要があるわ。


「エルマエル様、女性化効果に関しては見直しを要求します」


「そうね。女性ばかりになると、それはそれで鬱陶しいものね」


 私の要望をエルマエル様はすんなりと受け入れてくれた。


「ただ、ナーゴが首を縦に振るかよね」


 彼女はナーゴ様の行動に不安を持っているようだけど、それなら簡単です。向日葵君ひまわりくんで収穫した肉でイチコロですね。


「それでは、作戦終了と判断します。戦闘ゴーレムを帰還させて」


「はい。ゴーレム帰還させます」


 ロロアの元気な返事が聞こえる。


「それにしても、こんな事をして死神様に怒られませんか?」


「大丈夫よ。誰も殺めてないし」


「でも、これだけ派手にやってバレませんかね」


「それも大丈夫よ。ここもそうだけど、私が偽装してるから」


 うは~~。この人も良くやるわ。バレたら折檻せっかんされるのでは?


 こうして、三度目になる死神領防衛に成功した私達でした。







 戦闘を終わらせてサロンに戻ると、テルト様はのんびりと読書をされてます。


 早速、お茶の準備をしなくては。


「テルト様、お茶は如何ですか?」


「ああ、ありがとう。貰うよ」


 彼は本に向けていた視線を上げ、お礼を言ってくる。

 その顔は、この世界の人達と少し違うんだけど、男とは思えないような可愛らしい雰囲気なのよね。

 そんなテルト様を見ていると、戦闘で荒んだ心が洗われるようです。とても死神様とは思えない効果ですね。


「今日も良いお天気ですね」


「ああ、こんなのんびりとした日がいつまでも続くと良いんだけど」


「大丈夫ですよ。フフフ」


 そう、大丈夫です。あなたの幸せは私達が守りますから。だから安心して幸せな国を作ってください。


「ところでさ、みんなは何をしているの?」


 えっ、気付かれてしまったの?


 私が逡巡していると、彼は言葉を続けた。


「いや、みんなの姿を見ないな~と思って」


 いえ、まだ気付かれてないようです。


「恐らく、ルルカとフィオナは書庫だと思います。それ以外は――」


「そう。なら良いんだ」


 ふ~~~っ、驚かさないで下さい。寿命が縮んじゃいましたよ。


「あ、国民集めだけど、死神少女隊のコンサートで人を集めるってどうかな?」


「それは良い考えかもしれませんね。でも、それだと働き手より病的な人の方が集まりそうな気がしますね」


「う~む、それは確かに、やっぱり駄目か」


 残念そうなテルト様もちょっと可愛い。ウフフ。


「あと、ドルグド辺境伯の後釜が着任したようだから、そのうち手を出してくるかもね」


「その時はテルト様が守って下さるのですよね?」


「勿論だよ。君達の幸せは私が守ってみせる」


「ありがとうございます。とっても嬉しいです」


 少し、はにかんだようなその表情も、とても良いですね。



 こうして、私とテルト様の幸せな時間が過ぎるのでした。



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