第7話 捨て猫を拾う
目前の食卓には、牡丹鍋や焼き鳥が並んでいる。
誰が収穫したかと言えば、ハンター
「さあ、食べましょう」
「「「「「「は~~~~~~~い!!!!!!」」」」」」
リリーが食事の開始を告げる。
すると、全員が元気の良い返事と共に、とても少女とは思えない意気込みで食事に没頭し始めた。
リリー曰く、こんなにお肉を食べれるなんて、年に一度のお祭りぐらいですから。という事だった。
死神になって食の細った俺としては、あまり共感できる話ではないのだが、牡丹鍋とか生まれてこの方、一度も食べた事がなかったので、その美味しさには満足している。
てか、初めて食べたのが死んだ後と言うのも可笑しな話だ。
少女達と和やかな夕食を楽しんでいる時に、その事件は舞い込んできた。
『たのも~~~~~~!』
何か声が聞こえたような気がしたが...... 少女達は無心で食べている。
「何か声がしなかった?」
「ふぐふぐ」
「ガツガツ」
「あっちっ」
「もぐもぐ」
「はひはひ」
「うぐっ......ぷはっ~」
「......」
全員の全神経は肉に偏っているようだった。
『た、たのも~~~~~~~~~~~~!!!』
やはり何か聞こえる。仕方ないな~『遠見』で周囲を確認してみるか。
城の中には俺達以外に誰もいる筈がないので、城の外を確認してみると、城の門に一人の女の子が立っていた。
因みに、結界については敵意に対する反応察知と俺の任意による発動しか機能しない。使い勝手の悪い手動型の結界である。
まあ、ここをこのまま抜けても、きっと誰も気が付かないだろうし、転移で門まで行ってくるか~。
という事で、やって来ました門の外。
俺が転移で姿を現すと、その少女は直ぐに俺に気付いた。そして、ビックリする訳でもなく縋り付いてきたのだ。
「お腹が空いて......死にそう......です。こちらから美味しそうな匂いがしたので......」
この見た目は十歳くらいで黒髪黒目の可愛い女の子は、そう言いつつ俺の足元に倒れ込んだ。
一体、なんなんだ? それにしても、これは耳と尻尾だよね?
ガツガツ、ごっくん、ガツガツ、ごっくん、ガツガツ、うぐっ......ふぐふぐ、ぷっは~~!
「死ぬかと思いました。でも美味しいです」
結局、見過ごせる訳もなく食卓へと招待した。
「まあ、落ち着いて食べなさい」
「は、はい!ありがとうございます」
門前で拾った猫ちゃんは、捨て猫でした。と言うのは嘘ですが、一週間も食べずにいたらしく、涙を流しながら焼き鳥や牡丹鍋を掻き込んでいる。
周りの死神少女隊は、捨て猫ちゃんが増えた事に気付いた様子もなく、ひたすら肉に集中している。
こんな光景も幸せの一つだよね~、なんて考えたのがフラグだったのかもしれない。
「ごちそうさま~~~!あれ?いち、にい、さん......一人多くないですか?」
食事を済ませたリリーが、やっと一人多い事に気が付く。
「うむ。生き倒れていたんだ」
「そうですか。それは良い事をしましたね」
リリーは笑顔で俺を
そんな事を考えている内に、死神少女隊は全員が食べ終えたようだ。
残るは捨て猫ちゃんだけなんだけど、彼女達は不思議がることも無く、せっせと猫ちゃんにお肉を与えていた。
「た~んとお食べ」
「可愛い猫ちゃんですね」
「飼っていい?」
「駄目です。捨ててきなさい」
「ええ~~~っ、やだやだ」
「......」
ルルカ、ロロア、デニス、アマリア、クロエ、フィオナの順である。
ルルカやロロア、フィオナはご存知だと思うので、ここではそれ以外の隊員を軽く紹介しておこう。
デニスは茶髪とブラウンアイの瞳を持つ十歳の少女で、活発だけど浮き沈みの激しい性格の持ち主でロロアと仲が良い。
アマリアは金髪とグレーアイを持ち、リリーに続く年長で十二歳なんだけど、性格は彼女と違ってうっかり者だ。
クロエはやはり金髪とグレーアイの八歳でアマリアの妹だ。だけど、他の子と違ってやんちゃで男の子のような感じだね。
ふむ、死神少女隊の紹介をしている間に、捨て猫ちゃんも食事を終えたようだ。
「うっぷっ、た、食べ過ぎました......ごちそうさま......うっぷ......でした」
「うあ、猫が喋った!」
「おお~~」
「凄いですね」
「......」
捨て猫ちゃんが食後の挨拶をすると、ロロア、クロエ、リリー、フィオナが驚いている。
一体何を驚いているんだろうか?
「何か変か?なんでそんなに驚く?」
「だって、テルト様、猫が話したんですよ?」
リリーが返してくれるが、その意味も不明だ。
「えっと、猫といっても、猫人だよね?」
「なんですか、猫人って?」
今度はアマリアが尋ねてきた。
「あの、悪いが質問がある」
「何でしょうか」
全く話が噛み合ってないので、ちょっと基本から整理する事にした。
「この世界って獣人とか居ないの?」
「獣人ってなんでしょう?」
リリーの返事を聞いて理解した。この世界に獣人はいない。という事は猫人もいない。では、この猫ちゃんは何者だ?
「君って何者?それに猫人なのに語尾にニャとか付かなかったよね?」
「あたしはナーゴです。語尾に関しては先入観が強過ぎですよ」
「了解しました。ではナーゴさん、君は何処から来たのかな?」
「あ、自己紹介をしていませんでしたね。失礼しました死神様」
ナーゴちゃんは、食卓の椅子から飛び降りて
「あたしはナーゴ、創作神の使徒で御座います」
なに~~~~~!俺はまた使徒を引き入れたのか?
ドウドウ、心を落ち着かせて、はい! 平常心、平常心。
「使徒である君が何故ここに?」
「死神様が赴任したという噂を聞きましたので、ご挨拶にお伺いしたのですが」
「が?」
「お腹が空いてしまって......」
「あの~~、使徒ってお腹空かないでしょ?」
「うっ......克服......でき......なくて......」
と言う訳でした。そろそろお腹もいっぱいになっただろうし、お
「それじゃ~「あの~ここに置いてはくれませんか」」
お引き取り願おうと思ったら被せてきやがった。
しかし、ここは心を鬼に、いや死神にして断るべし。
「いいわよ!」
「えっ~~~~~~~!!!」
エルマエル、何勝手に許可してるんですか! てか、いつの間に戻って来たんだ?
「やった~~~!!」
「いや、いや、いや「良かった!猫ちゃん飼えるよ」」
喜ぶ猫ちゃん、断ろうとしたのに、ルルカが被せて喜びはしゃいでいる。
うぐっ、このルルカの姿を見たらきょ、きょ、拒否できん。
こうして捨て猫を飼う事になりました......
さて、捨て猫を拾った訳だが、周囲と本人の要求により俺の願いは却下され、彼女を飼う事になりましたが、がです。
「死神様、これはどうですか?」
「いや、要らないから」
彼女が差し出したのは手榴弾なのだが、その殺傷能力はそれ程高くなく、人の手足が飛んで行ったり、命を落としたりするような物ではないらしい。
ただ、気を失ったり暫く目が見えなくなったりする能力を持っており、その攻撃範囲は半径十メートルと広範囲だ。
「どうしてですか?死神様のお仕事にはぴったりのアイテムだと思うですが」
いやいや、死神の仕事は人の命を召すことだよ。だから、そんな殺傷能力の低いアイテムは無用でしょ。それに俺はそんな事する積りはないから、余計に無用なのさ。
「いや、必要ないよ」
「え~~~~もう二千個ほど作っちゃいました」
ぐはっ、流石は創作神の使徒、アイテム作りはお手の物なのだろう。
「作ったものは仕方ない。世の中に流出させない為にも武器庫に保管しておいて」
「は~~~い。次はもっと役に立つ物を作りますね」
「いやいや、作らなくていいから」
俺が断りを入れると、頭の上の猫耳をペタンと倒し、尻尾がへな~~と垂れ下がった。
うは、完全に落ち込みモードに入ったよ。扱い
彼女の言うには、使徒のノルマに役立つアイテム作成の個数があるらしくて、どうしてもアイテムを作る必要がとのことだ。
また、この会社にスカウトされるのは、創作に対して多大な興味を持っている者ばかりなので、放って置いても必ず作るようだ。
「はいはい、分かったから、少女隊に必要そうな物を聞いてから作ってね」
「は~~い!」
俺が条件付きで許可を出すと、一気に耳が跳ね起き、尻尾が元気にくねくねと動きだした。全くゲンキンな猫だ。
現金な猫と言えば招き猫だが、この子は招かざる猫かもしれない......
それから、彼女が色々な物を作り出して二週間になる。
彼女の手によって、今やこの死神城は要塞化されてしまった。
恐らく近隣諸国が攻めて来ても、全ての敵を打ち破れる程の難攻不落振りをお見せする事が出来るだろう。
「テルト様、これはどうですか?」
「......」
どうですかと聞かれても、この世界でハプーンミサイルを何に使うんだ? としか言葉が出ないのだが......
「エルマエルさんが、そのうち近隣諸国が攻めてくるだろうと言ってましたので、作ってみました」
「......仕舞っておいてくれ」
「は~い!」
くそっ、エルマエルめ!
ただ、彼女には悪気はないのだ。性格は本当に良い子なのだ。それはある意味、最悪だともいえるけどね。
でも、彼女の良い処は、彼女の作る武器や兵器では人が死なないのだ。
今回のハプーンミサイルの説明でもそうだった。
このミサイルは弾頭にとある薬品が装填されていて、それを浴びると弾、もとい、玉が無くなるのだ。
その効果を言い換えるならば、この攻撃を受けた者は全員が女体化するのだそうだ。
とんだハーレムミサイルだな。
だが、恐らく彼女は真実に気付いていないだろう......全ての人を女体化すると......ゆくゆくはこの星の人類が滅ぶのだ。
なんて恐ろしい兵器なんだ......なんて恐ろしい使徒なんだ......俺はなんて恐ろしい猫を拾ってしまったのだ。
結局は、この猫を俺の手で厳重に管理すると決めるのだった。
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