第6話 ハンター登場
あれから一カ月の月日が経った。
七人の少女達は忙しく城の中を駆け巡っている。
城の生活にも色々と問題が生じているのだが、それについては現時点では割愛することにしよう。
さて、この一カ月だけど、話が急展開する程に国造りが進んだと思う方も居るかもしれない。
そんな安易な考えを持つ者は、もし自分がそれを行った時に後悔することだろう。
国造りとはそんなに簡単なものでは無いのだから。
なんて偉そうに俺は言っているけど、何のことは無い、自分のそれが全く進んでないから言い訳しているだけでした。
大変、失礼しました。
では、この一カ月に何をしていたのかと言うと、区画整理と道造りですね。
生前に何かで読んだことがあるのだけど、戦後の焼野原で一番初めに区画整理と道造りを行った地域が、著しく発展したというお話です。
それが本当か嘘かは知らないけど、何となく合理的だと思った俺は、それを実行することにしたという流れですね。
そこで、現在は死神の居城となったこの城から半径五キロの範囲に
この楔について説明すると、これは死神の『大結界』に必要な補助具なのです。
通常の防御に使う『結界』では、こういったアイテムは不要なのだけど、肉眼で認識できない程の広範囲を結界で守る『大結界』の場合は、その範囲を指定する補助具が必要となる訳です。
という事で領地について話を戻すと、五キロ範囲は第一結界用に設置したもので、更にそこから十キロ範囲に第二結界用の楔と石碑を設置する事にした。
そういう事で、現在の死神領は城から半径十五キロ範囲という事になる。
まあ、領地決定は大して苦も無く終わらせたのだけど、大変というか異常に大変だったのは街道までの道造りだった。
これはロト村が使っていた道と言えないような
因みに、この道は南に位置する街道まで二十キロあり、街道に突き当たる処にはビビトの街が存在する。
話を戻すと、通常の異世界モノのお話ならば、主人公辺りが土魔法とか使えてガンガンやっちゃうんでしょうけど、死神にはそんな画期的なスキルは御座いません。
この場面で死神のスキルで使えそうなのは、『掘削』『転移』『重圧』の三能力だけ。 では、この三つの能力で
ハッキリ言って、驚くほど、感嘆するほど、
と言うか、完成した時には、死神ご用達の黒いローブが真っ白な灰になるところでしたね。
この時ばかりは、夜間の道路工事に苦情は言えないと、つくづく思い知らされたものです。
「テルト様、お茶は如何ですか?
流石はリリーだね。俺の長々とした説明で喉が渇いた事を察したみたいだね。きっと良いお嫁さんになれることだろう。
折角なのでリリーについて少し話すことにしよう。
黒髪をポニーテールにした少女で、頭も良く見目も健康的で可愛らしい女の子ですね。その黒い瞳が日本人を思い出させるのだけど、顔立ちや肌は白人種特有の雰囲気なので、日本人ハーフのような感じだね。あと、性格も明るく前向き思考で、しっかり者なのがよく分かる。
「これから如何なさるのですか?」
「それが悩みどころなんだよね」
彼女達は国造りに対して殆ど口を出してこない。と言うか、敢えて口に出さないようにしている風でもあるけど、やはり不安は隠せなみたいだね。
「区画整理も終わったようですし、自給自足の方法を検討してみては如何でしょうか。城の備蓄はまだまだありますが、永遠にある訳ではないですし」
珍しく彼女の方から提案してきた。
「この世界の主食って何になるのかな?」
「はい。穀物ならジャガイモ、麦、トウモロコシ、豆といった処です」
どうもこの世界にはコメは無いようだね。まあ、食事の必要がない俺にとっては、コメが食いたい! みたいな欲求はないから全然問題ないけどね。と言うより、この世界にも地球と同じ穀物があるのか!!
「種とかはあるのかな?」
「ジャガイモについては問題ありませんが、それ以外は全て焼かれてしまったのと、食料として消費してしまって......」
村が襲われたのが収穫時期後だっただけに、手痛い被害となったみたいだ。
それに、抑々働き手がいないし、色々植えても収穫すら真面に出来ないかもしれない。
「やはり人手が無いのがネックだよな」
「そうですね」
と言うのも、少女達の紹介をここでする積りはないが、年齢の話をすると下が五歳で最年長がリリーの十三歳となる。況してや十歳以上の子が四人しかいない。
「これは住民の募集をするしかないな~」
「そうなんですが、どうやって募集しますか?」
「ただいま~」
深刻な問題についてリリーと話をしていると、「ちょっと出かけてきます」と言い暫く姿を見なかったエルマエルがサロンに入ってきた。
そう、俺達は今サロンで
「今日はね、友達を連れて来たの。探すのが大変だったのよ、感謝してね」
「初めまして~、死神様。わたしは~豊穣神の使徒マリネラと申しますわ~」
ぐぎゃ~~。またまた使徒登場ですか!?
エルマエルの感謝したくない台詞の後に、ブロンドと白い肌を持つその美しき使徒は、俺とリリーの
「今回の~死神様は~やる気が満ち溢れますね~。赴任するなり~国を興して~大勢の人達をあの世に召されるのですね~」
エルマエルはどんな説明をしたんだか......彼女の様子を伺うと、首を横に振る度に綺麗な金髪が着いて揺れるのが視界に入る。
「そんな死神様には~、豊穣を司る使徒であるわたしが~この種を差し上げますわ~」
そう言って、開いた口が塞がらない俺に、彼女は一つの種をくれた。
「この種は?」
「これは~品種改良で~とっても元気よく育つ作物ですわ~。きっと~食料に困る事はないですわ~。害虫にも鳥獣にも負けませんわ~。ただ~水の遣り過ぎには気を付けて下さいね~」
恐らく。ここで言う『鳥獣』とは、鳥の魔物という意味ではなく、鳥や獣という意味だろう。
その綺麗な使徒はそれだけ告げ、「では、また何時か」と一言だけ口にして光の中に消えてしまった。
「エルマエル、彼女は......」
「言わないで!良い使徒なのよ、ただちょっと天然素材なだけだから」
確かに人は好さそうだったけど、あまり一緒に居たくないタイプの女性だよね。
こうして、豊穣の使徒との邂逅があったのだけど、もし、これからの事を予知する能力があったのなら、きっと彼女には速攻で御引き取り願ったと思う。
その夜は雷を伴って激しい雨が降った。
俺が横たわるキングサイズを超えるベッドには、雷を恐れた幼少の二人が潜り込んでいた。
一人はルルカでリリーとよく似た容姿を持つ可愛らしい幼女。もう一人はルルカの一歳上で彼女と仲の良い、銀髪とグレーアイを持つ賢そうだけど無口な幼女のフィオナだ。
そんな幼女が避難してきたことから、この時の俺は重大な見落としに気付けなかった。
昨夜の豪雨が嘘のように晴れ上がって、清々しい朝を迎えた時にその事件は発覚した。
「テルト様、テルト様、テルト様、た、た、た、大変です」
寝室の扉を押し破らんばかりの勢いでリリーが入ってくる。
「どうしたんだ?」
全く眠くない俺は即座に起き上がると、リリーに大変だという内容を聞く事にした。
「来てください。み、見て貰った方が早いです」
いつもは冷静でしっかりした性格のリリーが随分と慌てている。
そんな彼女は、ローブを着ている最中の俺の手を取って走り出す。
大慌ての彼女に連れて行かれた場所は、城の東側にあるバルコニーだった。
「な、なんじゃこりゃ」
そこで目にした光景は、まさになんじゃこりゃだった。
その光景に対する驚愕を置き去りにするような勢いで、俺は『転移』で現場に直行した。
そこにあったのは、高さ五メートルはありそうな
マリネラが置いて行った『種』だった。
昨日、マリネラが帰った後に如何するかと思案した結果、彼女の『食料に困る事は無い』という言葉を信じて、城の東側にその種を植えたんですが......
俺達は彼女の注意事項を忠実に守り、種を植えた後に少量の水を与えると、その種は直ぐに芽をだした。
その芽は普通の植物と変わりないように見えたので、果報は寝て待てといった具合にその場から撤収したのだった。
これを引き起こした要因は、恐らく昨夜の雨だろう。それにしても成長し過ぎじゃないのか?
そんな感想を思い浮かべた時に、この事件の危険性を認識した。
一匹の大型野鳥が、その向日葵群の上空を通過しようとした途端に、向日葵群の丸い花が一斉に鳥に向き、ニッコリと笑うような口を開くと、人がスイカの種を飛ばすようなイメージで、上空を飛ぶ鳥に、種らしきものを飛ばして撃ち落とした。
その光景は、まさに戦闘機に向けた弾幕といった感じだね。
あまりの事態に、俺は一歩後ずさるのだけど、この向日葵群はそれでは完結しなかった。
弾幕を避けることが出来ずに撃ち落とされた大型野鳥を、一本の向日葵が丸呑みしてしまった。その様子は、まるでホームラン球に群がる観客を思わす。
食虫植物もとい、食獣植物かよ。
そんな思いを余所に、事態は更に異変を見せた。
ホームラン球を獲得した向日葵が暫くして、ぷいっと口から白い物を俺に向けて吐き出した。
近付いてみると、ビニール袋に包まれた加工済の鳥肉だった。
な、な、なんじゃこりゃ~!
「流石はマリネラ、凄い植物を作ったものね」
振り向くとそこには笑顔のエルマエルが居た。
「これで肉の確保については考えなくて済むわね」
エルマエルはそう感想を述べるが、これって豊穣とは全く関係なくないか?
「あのね。普通は豊穣といえば、対象は穀物や作物だからね。動物の加工肉を作る豊穣なんて聞いたことがないよ」
こうして、この植物の危険性を認識した俺は、結界を配置してこれ以上繁殖しないように制限した。と言うのも、ある日突然、人の加工肉なんて出来たら大変だからね。
それと、色々と試した結果、うちの城にいる人間には危害を加えない事が解ったけど、他の人については定かではない。
ただ、時折接近したイノシシやクマの加工肉を作ってくれるので、少女達に一日数回の確認を行って貰う事にした。
そう言えば、彼女達が向日葵の事を『ハンター』と呼んでいたのだけど、これが定着してこの向日葵は『ハンター向日葵』と呼ばれるようになった。
それにしても、このビニール袋は何を基に作られているのだろうか? そんな疑問を持ちつつも国民を増やす方法に悩まされる俺だった。
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