第2話 配属先は第六宇宙課

 目前には、スチールで出来た簡素な扉がある。


 その扉は、その辺のサラリーマンが毎日出入りする其れと何ら代わらない。

 ここでジッとしていても始まらない。ドアを二回ほどノックし、開け放つと俺は声を大にした。


「御神 輝人です。この度、第六宇宙課に配属となりました」


 すると、コップと中身のコーヒーらしき物が飛んできた。


「うっさいわよ」


 コップは避けたのだが、液体を避けることが出来なかった俺は、少し濡れた真っ黒なローブを気にしつつも室内を見回す。


 その部屋は、二十畳くらいの広さで、安物の業務デスク六つを向かい合わせに置かれた簡素な印象だった。というか、貧乏部署という空気が漂っている。

 六つのデスクには、女性が三人ほど座っているだけで、残りの三席は無人となっている。


 どうも、コーヒーを投げつけたのは、三人の内の一人で、どう見てもヤンキー姉ちゃんみたいだ。というか、今時そんな典型的なヤンキー姉ちゃんなんて居ないよね。


「余計なお世話だよ!」


「あ、あの、ミサキさんがここに来たのは三十年前ですから」


 一言も発していないはずなのに、ヤンキー姉ちゃんからのクレームを受けるわ、もう一人の若く可愛いお嬢ちゃんから説明を受けるわ、一体どうなっているんだろう。


「そんな~、若くて可愛いだなんて......でもお嬢ちゃんは止めてください」


 ん~完全に心を読まれているみたいだ。


 ミサキと呼ばれた女性は憤慨し、説明してくれた女性は身体をくねくねさせている。


 そんな時に、窓を背にして置かれた一つだけ向きの違うデスクから一人の男が立ち上がった。


「まあまあ、ミサキ君、そう怒らずに。私はこの第六宇宙課の課長をしている三田村みたむらと言うものだ。気軽にみっちゃんと呼んでくれ」


「あ、初めまして。私は「うんうん、良いよ。さっき聞こえたからね」」


 俺の紹介を三田村課長が止める。


「そして、こちらの三人が、ミサキ君、かおる君、しずく君だ。宜しくね」


「ミサキだ。さっさと逝っちまえ」


「かおるです。お嬢ちゃんは止めてくださいね。これでも死んでから230年経ってますから」


「しずく......」


 とても印象的な三人でした。


「あの、どうして私の心が読めるのですか?」


「ああ、彼女達はオペレータだからね。遠くの世界と話をする能力を持っているから、このくらいの近距離だと、心が読めてしまうのさ。不純な考えは止めた方がいいよ」


「それは、てめ~だ。いつも不埒ふらちな事ばかり想像しやがって」


「そうですね、少し不愉快ですね」


「死ねばいいのに」


 三人から責められている三田村ことみっちゃんは、全く堪えた風でも無く微笑んでいる。


 ただ、もう死んでるんだけどね。


「死神の仕事は知っているね。早速で悪いが赴任して貰うよ。担当は~~、うむ、しずく君にお願いするよ」


「やだ」


 即答で拒否された。


「済みません。オペレータの業務については教えて貰ってないのですが」


「あれ?そうなの?最近の新人研修も質が落ちたものだね」


 みっちゃんは愚痴りながらもオペレータの役割を教えてくれた。


 その役割とは、大した内容ではなかった。

 単に死神をサポートするだけらしく、此方から疑問や知りたい事を聞けば答えてくれるというものだった。


「じゃ~みんな集まって貰えるかな」


 みっちゃんがそういうと、この部屋に設置された出入り口とは別のドアに全員がぞろぞろと付いて行った。


 その部屋は、先程の部屋より更に狭く、真四角のテーブルに四つの椅子が並べられていた。


 このテーブル、どこかで見た事がある。というか良く知っている。

 この緑色で数カ所に切れ目があるこの物体は、電動麻雀卓だよね。


 なんで、こんな処に麻雀卓?


「じゃ~、みんなサイコロを振って」


 みっちゃんの声で、俺以外の皆がサイコロを振る。

 良く分からないけど、その結果にミサキが悔しがっている。


「じゃ~、始めるよ~輝人君も席について」


 こうして、みっちゃん、かおる、しずくの三人と麻雀を遣る事になったのだけど、フフフッ! 俺は麻雀の申し子と呼ばれた程の腕前なのだよ。さ~、ご覧あれ。





「じゃ~、輝人君の百六十万点マイナスで一人負けだね」


 ぐはっ、お前等、イカサマしてるだろ!


 徹マンした結果がこれだった。


「輝人はバカ、皆が心を読めるのを忘れてる」


 が~~~~~~ん!そうだった......


 しずくの台詞でやっと気付いたこの事実。どうりでツモでしか上がれないはずだよね。俺ってバカだったのね......


「気付くの、おっせ~」


「ご愁傷さまです」


「バカ」


「時既に遅しだね。はい、輝人君、サイコロを振って」


 みっちゃんに言われるままに三つのサイコロを振ると、六と六と六の目が出た。


 この世界は六が好きだね~。


「は~い、じゃ第十八惑星ね。ノルマは百六十万人ね」


 百六十万人...... 麻雀のマイナスがそのままノルマに...... どんな部署だよ。


「あら、うちなんて真面な方だよ。隣の部署なんてダーツのカウントアップで負けた数字掛ける万だよ。それも十セットだし」


「確か、前回の新人はノルマ六百万くらいになってたな」


 みっちゃんの台詞に続き、ミサキが結果を教えてくれた。


 ふざけるなよ! この悪魔どもめ。


「残念、皆死神でした」


 しずくの台詞が俺の心を甚振いたぶってくる。


「じゃ、行く先もノルマも決まったし、早速いってらっしゃ~い」


 みっちゃんはそう言うと、大鎌を取り出し俺を切り裂いた。


「あ~忘れてた。任期は五年ね~~~~」


「無理な方に三千点」


「ん~千点かな」


「勝負にならない」


 そんな、みっちゃんとオペレータ三人の声が聞こえたのを最後に、またまた意識が遠のいて行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る