第7話 救出

「あの~皆さんすいません。この先だいぶ水があふれてきているので気をつけてください。」リーダーの青年が後ろに向かって大きな声で前方の状況を伝えてくれている。私も振り返って後ろの人数を確認してみると、暗がりでわかり辛いが最初の人数から2名ほど少なくなっているようだ。急に減っていると事故でもあったのかと心配してしまうが、「あっ、さっき2人戻られちゃいました」リーダーの青年が2人の後姿を確認していたようで、笑顔でこちらに話しかけてくれた。私の眉間の皺から察知してくれたようである。

 「えっ、前からこんな状況だったの?その中おんぶしてきたの?」この先は水の中を進む。私の疑問がひとつ晴れた。あの濡れ方は汗ではなく雨水によるものだったようだ。「そうなんですよ。さっきよりもどんどん増えてきてますね。車掌さんから構内の排水機能は相当あるから安心してくださいと言われているんですが。急がないといけないかもしれません。」リーダーの青年は若そうに見えるが頼もしい。「あの私は斉藤と言いますが、お名前教えていただけますか」どんな仕事をしているのか興味が湧いた、とりあえず名前から聞いてみる。「すいません。申し遅れました。桜井といいます。仕事は消防士なんですが、今日は非番で実家に彼女を紹介に行く予定でこんな格好していたんですが、台無しですよね。」この状況でもさわやかな笑顔で応えてくれた。私が何の仕事をしているか知りたそうなことも察知してくれたのだろう、直感力の高そうな青年である。しかも消防士なるほど頼もしいはずである。「さっきおんぶされていたのが彼女?」「いいえ、私の連れとは東京駅で待ち合わせなんですけど、さっきから連絡取れていないんですよね~。」この時ばかりは少し元気がなかったが「少し急ぎましょうか」と急かされ、無言ではあったが相変わらずさわやかな笑顔で水の中を進む。

 足元の水かさが膝あたりまで来ている状況なので、注意しながら進む。薄暗い中にぼんやりとさっきまで乗っていた車両の影が黒々と見えてきた。水かさは太ももあたりまできている。車両のした半分程度が浸かっているようで、車内まではまだ浸水していないようである。なんとかなりそうだ。桜井さんが先頭で手際よく車両の中へ上がっていく、そのあとに女性陣が続く、桜井さんが手を差し出して引き上げる。女性2名が昇ると3人で前の車両へと進まれた。あとの男性陣は自力で来いということだろう。

 あれ?3人しかいない。また1人減っている。ちゃんと前の駅のホームに戻ってくれていればいいのだが、神隠しみたいに減っているのは気味が悪い「みなさんお名前は?」もう脱落者は出したくないので関係性をつくるためにも話を膨らませて何らか共通の話題を作りたい。「近藤です。」「藤崎です。」「奇遇ですね私は斉藤です。藤が3人ともつきますね。ちなみに先に女性陣と行かれてしまった好青年は消防士の桜井さんです。藤がつく我々3人は富士山チームということでよろしくお願いします(笑)」くだらないネーミングに皆苦笑いだが、チーム意識が少し芽生え3人協力して何とか車両内へと昇ることはできた。「あの~やばくないですかこの水、どんどん増えてますよね。」三人の中で一番若そうな藤崎さんが不安げに話しかけてきた。「確かに、外がどんな状況なのかわからないけど相当な雨か、河川が氾濫でもしたのかもしれないですね」私がそう応じると、近藤さんが「よっぽど巨大な津波が来ない限り地下鉄内は大丈夫なはずです。私は霞ヶ●で災害対策の国の仕事をしているので…」そう言いながら前方の車両へと移っていく、私と近藤さんも遅れまいと連結部のガラス扉を横にスライドして車両連結部を通り前の車両へと移動する。

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