第4話 救急ですか?

「火事ですか?救急ですか?」119番のコールセンターへの入電量が今日は非常に多い「あの~どちらでもないんですが、家の前の道路に大きな穴があいて車をだせないのですが、110番に電話したほうがいいですか?」のんびりした声の男性からである「こちらで大丈夫ですよ。状況をもう少し教えていただけますか?まずお怪我されている方はいらっしゃいませんか?」「私は独身なのでうちはいないですけど?穴の中に誰か落ちているかもしれませんが、近くまでは見に行けないのでわかりません。今日は道路なおらないですよね。会社に行かないといけないんですが、休んだほうがいいですかね…」

 あせっているのか、落ち着いているのか、緊張感が伝わってこないのでたいしたことのない状況かなと思ってしまったが、質問をかえてみる「今お電話いただいているところから穴の大きさは確認できますか?」「ちょっと待ってください。見えるところに動きますので……あっ見えました、あっ、さっきより大きくなってますね。横に20メートルくらいでしょうか、幅は3メートルくらいかな、深さは見えないのでわかりませんが…」けっこうな大きさなのに、冷静に話されている「えっ、かなりの大きさですね、大きさが拡がっているんですね。今いらっしゃる場所は安全な状況でしょうか」さらに穴が拡がれば家を飲み込みかねない「家の中にいるので大丈夫だと思いますが、家の前が穴なので出ることは無理です」それでも冷静に話されている「わかりました。急いで避難できるように、隊員を向かわせますので住所を教えていただけますか。」私のほうが少し焦っている。他にも同じような電話がかかってきているようで、センター長が共通認識用の中央のホワイトボードに、はしご車2台と隊員10名が7時25分に荒川区●丁目付近に向かっていると書いている。男性はまだ冷静に「荒川区●●●丁目●●ビルになります。近くに●●公園があります」とたんたんと住所を伝えてくれた。「すでに隊員がお近くに向かっておりますので、到着したらすぐに動ける格好で安全を確保してお待ちください。ご連絡ありがとうございました。」住所は私の実家のすぐ近くである、私の焦りはさらに増して変な妄想が頭の中を駆け巡る。確かに地盤があまり強い地域ではなく、地震のときに液状化などの注意が必要な地域でもある。最近の雨続きで地下の地盤に影響を及ぼしたのであろうか。父親も母親も高齢であり心配である。すぐにでも駆けつけたいのだが入電は続く「火事ですか?救急ですか?」…


「これ、やばいな」到着した隊員の第一声は想定外の状況に驚きを隠せない。道路のアスファルトが道幅一杯に崩落している。その穴に向かって雨水がけっこうな勢いで流れこんでいく。少し坂道になっているため上に回らないと穴の中の状態ははっきりと確認できない。「道路の下の砂地が流されて陥没した可能性が高い、この地域一帯がそうなっている可能性もある。一旦この周辺の高台にベースキャンプを張る。一人で動くことは禁止。行動は必ずペアで。ライフジャケット・命綱の装着も必ずするように。無線の回線は3で統一。どんな情報も逐一共有するように。」隊長のスピーディで的確な指示から伝わる緊張感もあり、心臓のバクバク感がさらに高まっていく。

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