第26話

 Mはコーヒーカップに口をつける。中身はクリーム色だったので、またカフェオレだろう。


「今日の収益なんだけど、最初に言った通り一体は十五万。これはチャーチの情報局にデータのあった、ツヴァイと言う怪人ね。次にドライと言う怪人は何の情報もないから、新たに生まれ出でた怪人だと思うわ。強さもツヴァイと同等だったけれど、然程被害を生んでいないようなので、情報局は十万の値しか付けないでしょうね。そしてアインスと名乗った怪人なんだけれど、先日新米ヒーローを殺したという報告があったわ。それもあってか他の二体より報酬が高いわね。アインスの報酬額は二十五万よ」


 二十五万と言う高額の報奨に僕は思わず、「おー」と、反応してしまった。


「合わせて五十万の報奨金と出撃料の一体五千、三体だから一万五千が加算されて、計五十一万五千の収入があるわ。そして支出は銃の使用二発分で六万よ。結果収支四十五万五千円になるわね」


 素早い動きで電卓を叩くと、Mは金額を僕に見せ言ってくる。

予想以上の収入があった。


「さあここから話し合いの時間よ。このお金を全て青の借金の支払いに当ててもいいし、銃弾の次回支払い用に補填してもいいわよ」


 ブルーの借金の金額は二百九十九万五千円。早く全額返したかったが、今回の報奨金全額当てるのは危険だった。今回の戦いで武器の大切さが身に染みていた。

「ちなみに私の提案としては、次回スーツの光学式化費用十万と刀の光学式化費用十万、ライフルの装弾数マックスの八発分、一発三万の八発分計四十四万を武装強化費として使い、残りの全額七万五千を青の借金返済に使うのが良いと思うんだけれど、どうかしら?」


 確かに武器は全て補充しておいて、間違いはないはずだ。


「はい。それでお願いします。けれど、Mさんの生活費とかは引かなくていいんですか?」


「今はまだいいわよ。今、装備にケチったら英雄君明日にでも死にそうだしね。けれど次回からはしっかり私たちの生活費を支払って貰うわよ」


「音ちゃんのエステ代も次からよろしくね~」


 月に五十万の生活費は厳しいが、Mも命をかけて僕のフォローをしてくれているんだ、頑張って支払おう。

 だけど、音ちゃんのエステ代に関しては無視することにした。


 僕はコーヒーを一口飲み、苦味に顔をしかめそうになるのをグッと堪え神妙な面持ちをし正座した。


 どうしても二人には言いたいことがあった。少し照れくさかったが勇気を出し、僕はその言葉を口に出す。


「Mさん、音ちゃん今日は本当にありがとうございました。二人の助けがなかったら、僕は今日の戦いで死んでいました。明日からも全力を尽くして戦いますので、また二人の力を貸してください」

 僕は深々と頭を下げた。


「にゃ~、英雄っち~頭を上げてよ~。音ちゃんは仲間なんだから当たり前のことだよ~」


「そうよ英雄君、私も音ちゃんも何も特別な事はしていないわ。マネージャーとして、仲間として当たり前の事をしたまでよ」


 僕のために戦い方の指示を出してくれるMさん、怪人の情報をくれる音ちゃん。この二人が着いていてくれるのに僕は一人で戦おうとした。

 一人で戦う強さもあるかもしれないが、僕は力をあわせる強さもあるのだと、今日知ることが出来た。


「それにね英雄君……明日からも全力を尽くすんじゃなくて、次の戦いからからも全力を尽くしてね」


「えっと次の戦いといいますと?」


 Mは「ふふふっ」と笑う。


「次の戦いは今日あるのよ。正座してるくらいだし、足も問題なさそうね」


 確かに足の痛みは大分引いていた。


「さあ英雄君、コーヒーを飲んだらすぐに向かうわよ」


 Mはカフェオレを一気に飲み干した。


「すぐに?」

 どうやら僕を休ませる気はないらしい。


「英雄君ならきっと勝てるわ。私たち英雄君のこと……信用してるんだから」


 駒野英雄十五歳にして過労死と言う言葉を理解した。


 これが二日目の話。

 三体のハイエナの怪人と戦い、僕はヒーローとしての道を一歩踏み出した。


 そして人の道を一歩踏み外した日でもある。


 あの時の僕はMの言葉を鵜呑みにするだけで、咀嚼し意味を理解しようとしていなかったんだ。ただただ、ヒーローとはこういうものだと思い、言われるままに歩んだだけだった。

 それでもこの日までは間違いなく僕はヒーローだった。

 

 いや、ヒーローのマネージャーと名乗るMの、ヒーローと言う名の駒だったと言ったほうが良いかな? 

 

 皮肉な話だ。駒野英雄がヒーローと言う駒だった。くだらなすぎて笑う気にもならないね。本当にくだらない。


 結論から言えば、僕はこの後もう一体の怪人と戦った。

 多少の苦戦はしたが、ハイエナの怪人達と戦った時のような大きな怪我はしなかった。


 そう、無傷で済んだから三日目にあの怪人と戦うことになったんだ。


 ここからは三日目の話をするけれど、少しだけ遡って二日目の話も交えようと思う。

 二日目の後半戦、絶望の話を。

 

 今でも悔やんでしょうがない。ぼくは気づけなかったんだ。


 Mが僕に何度も信用しているといったが、一度たりとも信頼しているなんて言わなかった事を。


 信じて用いると書いて信用。

 信じて頼ると書いて、信頼。


 僕は一度たりとも頼られていなかった。


 ただただ用いられただけ、使われただけの存在だった。


 少しマイナスな表現が多かったね。

 

 それじゃあ気を取り直して三日目の話をしよう。


 ただの少年からヒーローになった僕は、三日目で刮目するほどの変化があったのか? 


 それとも何も変わらなかったのか。


 僕の変化を刮目して見よ。

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