第15話 思いやり

 「どうして庇ったの? 」

私には訳が分からなかった。

自分が被害に遭ってまでどうして。

「見て見ぬ振りなんてカッコ悪いでしょ」

「それだけ......? 」

「もちろんそれだけじゃないよ? ......俺、思い出したことがあるんだ」

体操服のジャージに着替えながらそっと呟く。

さすがに顔を背けた。

でも、思い出したことは気になる。

「小さい時は、助けてもらってばっかりだったね」

「そう、だね。 すぐ泣いてたし......」

少しドジだったのか、千春くんはよく転んだり頭をぶつけたりしていた。

その度に滝のように涙を流すものだから、”泣かないで”っていつも言っていた。

当時は大変だったけど、今となればいい思い出。

「あの時のお返し。 今は俺だって強くなったから」

「叩いたりしたらダメだよ? 」

「分かってるよ」

ところで、と千春くんは話題を変えた。

さっきみたいに真剣な顔つき。

「大丈夫? まだ、三年生始まったばかりだけど」

「もう、慣れたし、大丈夫!」

私は笑顔を見せた。

本当は、少し無理はしていたかもしれない。

でも、これ以上迷惑はかけられない。

そう思っていたのに、千春くんには敵わなかった。

「大丈夫なら、あの時屋上に用はなかったよね? 」

その言葉に何も言い返せない。

墓穴を掘ったみたいで恥ずかしい。

「これから、お昼休みと放課後は俺の教室においで」

「え、でも......」

「少しでも一緒にいた方がいいよ」

「......うん」

クラスが違うからいつも一緒、というわけにはいかない。

だからこそ、千春くんの気遣いだ。

ありがたく思うべき。

......という思いもある。

だけど、本音は一緒にいられる時間が増えて嬉しい。

それは、まだ秘密にしておこう。

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