第14話 怒り

 それからというものの、私は千春くんの”婚約者”として生活していた。

もうすぐパーティがある。

髪や肌の手入れにも自然と気合が入るものだ。

それを千春くんに褒められるのが嬉しい。

そのために頑張っている、というのも悪くない。

朝、いつものように学校へ行く。

千春くんは教室まで送ってくれるのだが、遠目から見たクラスの雰囲気が危険な香りを漂わせていた。

「ここまででいいよ? 」

「うーん、ダメ」

「本当にいいから!」

と言っても千春くんは聞かない。

昔こんなに頑固だったっけ?

仕方がないので、千春くんの少し前を歩くことにした。

そっと扉を開けると、案の定。

バケツから水が。

「っ......」

濡れる、と思って目をつぶった。

だが、一向に髪も、服も濡れない。

その代わり、周りからのどよめきと、千春くんの声が聞こえた。

「冷たいなぁ......こんなに冷たい水、麗ちゃんにかけようとしてたんだ......」

「千春くん......」

全身ずぶ濡れの千春くん。

クラスの人たちはどうしよう、という顔をしている。

私も私で申し訳ない気持ちになる。

「千春くん、ごめんね......」

「どうして麗ちゃんが謝るの?ごめんなさいを言わないといけないのはここのクラスの人だよね? 」

その言葉を聞いてかポツリポツリと謝罪の声が聞こえる。

だが、それでも千春くんは不服そう。

「俺にじゃなくて、麗ちゃんに謝らなきゃいけないよね? 」

それは違う、と言いそうになって踏みとどまる。

それは、千春くんの顔つきがそうさせた。

いつになく真剣な顔。

そう言われても、クラスの人は動かない。

「もう、いいや。 麗ちゃん、ちょっと来て」

「え、えっと......」

「早く、ね? 」

その有無を言わせない表情に、私は付いていくしかなかった。

その背後でクラスの人が私たちを睨んでいたことを、私は知らない。

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