第13話 好きなものが一番

 そんな関係になって改めてダンスの練習をすることになった。

やはり少し忘れている。

それを千春くんは汲み取ってくれたのか、私に合わせてくれる。

「ごめんね、もう少し練習するから......」

「今のままでいいよ? 俺がいれば転ばないし」

転ぶか転ばないかの問題ではなく。

むしろ、そのレベルの話では大問題なのでは?

お気楽なところも変わってない。

「そんなことより、ほら、こっち」

「え? ちょっと......」

手を引かれ連れてこられた部屋。

そこには色とりどりのドレスがかけられていた。

女の子なら一度は憧れる光景だろう。

「麗ちゃん、気になるやつとかある? 」

パッとはなかなか決めにくい。

だけど、一番気になるのは......。

「これ......あ、でも、こっちで」

本当は淡いピンクのドレスがいい。

だけど、私もいい歳。

もう少し、大人っぽいのを。

そう思い薄緑の落ち着いたデザインのものを指差した。

子供っぽいとか、言われたくなくて。

「じゃぁ、このデザインで、麗ちゃんに合ったサイズで発注してくれる? 」

「かしこまりました」

千春くんが指したのは私が先に指差したピンクのドレス。

どうしてなのか理由も分からず、ぼーっとした状態で採寸された。

スタイリストさんが出て行った後、聞いてみる。

「どうして、ピンクの方にしたの? 」

「好きなんでしょ、ピンク。 昨日のネグリジェも、今日の髪飾りも」

言われてみれば周りのものにピンクは多い。

ピンクは好き。

「子供っぽいとか、思わないの?」

「麗ちゃんが好きなのを着れば、それが一番似合うと思う。 ね? 」

あざとい。

いつの間にそんな技を覚えたのだろう。

これには私も素直に頷く他なかった。

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