第12話 千春くんと麗ちゃん

 「ねぇ」

「は、はい、何でしょうか」

背後から声をかけられ、肩を揺らす。

振り向くと千春くんが立っていた。

その顔はどこか嬉しそうで。

......もしかして。

「探していた人、見つかりましたか? 」

「うん。 見つかった」

本当は泣きたい。

今すぐにここから立ち去りたい。

だけど、それは失礼だ。

涙を堪え、その場にとどまる。

「良かったですね......」

「何、他人事? ......麗ちゃん」

そう呼ばれたのはいつ以来だろうか。

ああ、私が海外へ行く時。

空港で泣きながら呼んでくれたのが最後。

「俺が言ってた好きな人は、昔よく遊んでて、突然日本からいなくなった人」

そこに、事故で記憶がなくて、と付け加えた。

私、何も知らなかった。

事故に遭ったのが私がいない時でも。

知ろうともしなかった。

ただ、逃げて、自分を正当化して。

「わ、私は......」

「俺と麗ちゃんの思い出、思い出せるように手伝って? 」

「......はい」

私だって思い出してほしい。

だって、私は全部覚えているから。

初めて会った時も、別れの時も全部。

喧嘩したことも。

思い出せるまで、自分の気持ちには蓋をしよう。

負担は、かけたくないから。

「じゃぁ、俺のそばにいるだけでいいよ」

「仕事が、まだ......」

「俺のそばにいることが仕事。 それじゃダメ? 」

「あの......」

「あ、敬語もダメだし、前みたいに”千春くん”って呼んで」

働き始めて1日もせずに解雇宣言。

でも、その方が私は自然体。

なら、それでもいいのかもしれない。

私は、私なりに。

また、昔に戻れるのなら、できるだけ。

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