第11話 記憶
メイド長の部屋へ行こう。
普段深和さんが働いている部屋へ行くと、すでに仕事に取りかかっていた。
なぜか深和さんの事は”さん”をつけてしまう。
「何かご用でしょうか、千春様」
「ちょっと聞きたいことがあって」
もちろん聞くことは朝のこと。
いきなり本題に入る。
「麗って、俺、前に会ったことある? 」
本人は顔見知りと言っていたが、何か違う気がする。
もう少し上のような気がする。
だけど、思い出せない。
「やはり、忘れているのですね」
ということはやはり、会ったことがあるのだろう。
でも、どうして思い出せない?
気になってしまう。
「幼い頃、誰と遊んでいたかは覚えていらっしゃいますか? 」
確かにいた。
遊んでいる映像は頭に浮かぶ。
なのに、顔、声がぽっかりと空いてしまっている。
こんなことはあるのだろうか。
「以前、事故に遭われたことは覚えていらっしゃいますか? 」
「ああ、覚えている。 それが? 」
事故といっても車にはねられたとかそういうわけではない。
階段から足を滑らせただけ。
三日ほど意識はなかったそうだが、今までこれといって問題はない。
「おそらくそれが原因で、千春様は記憶を一部無くされています」
これは俺も初耳だった。
だが、考えてみればその通りなのかもしれない。
昔遊んでいたことも覚えている。
幼稚園の名前も、先生の名前も覚えている。
なのに、遊んでいた子の顔、声だけが思い出せない。
「どうしたら、思い出せる? 」
「私もこういったことは初めてですので、分かりかねます」
「だよな......麗と俺、仲よかった? 」
「もちろんです。麗ちゃん麗ちゃんと、その話ばかり」
そこまでだとは思っていなかったが、長くここにいる深和さんが言うことだ。
本当なのだろう。
そう考えていると、深和さんが写真を何枚か持ってきた。
「千春様と麗ちゃんです」
そう言われてみた写真には、少し不機嫌そうな俺と、明るく笑うあいつ......麗ちゃんが写っている。
昔から俺は写真を撮られることが嫌いだったんだなぁ。
「俺、頑張って思い出す。 俺のためにも、麗ちゃんのためにも」
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