第9話 本当は?

 隣で眠るこいつを見て思う。

おどおどしていて、つかみどころもない。

自分に自信がないのか、少し縮こまっている。

なのに、人にはお節介を焼く。

そういえば、こいつの名前も聞いていない。

俺は何も知らないのに、こいつは......。

俺の名前も、クラスも、生徒会長であることも知っている。

そして、迎えに行くと言って、本当に来た。

呼ばれたら割とすぐに来た。

さっきは例外。

何か、呟いていた。

その横顔は悲しみ、憂いを帯びているような気がした。

メイド長によると、レッスンがレッスンになっていないという。

どうしてそんなに早く済ませられる?

一体、何者?

 

「......くん......千春、くん......ぅん......」

「え......? 」

思わず声を出してしまった。

起こしてはいないようだ。

今、何て言った?

俺のことを、”千春くん”?

よく見ると、こいつの目は涙で濡れていた。

理由は分からなかったが、夢、だろう。

「千春くん......てって......ごめ、んね......」

何を夢見ているのだろう。

気になってしまう。

明日が学校でなくて本当に良かったと思う。

目に溜まった涙をそっと掬うと、安心したように寝息を立て始める。

「何なんだよ......」

そのあとも俺はしばらく寝付けずに、こいつの顔を見ていた。

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