第8話 嘘か誠か

 「理由をお聞かせ願えますか? 」

「理由? 」

「私を......呼んだ理由です」

「そんなことで悩んでたの? 」

そんなこと?

私の気持ちはどこへ行くの?

千春くんにとってはどうでもいいかもしれない。

私は、違う。

それは口に出さず、静かに頷く。

「フリとは言っても、バレてはいけない」

確かにそうだ。

影武者を使っているなど知られてはいけない。

「そのためには、ある程度親交がなければいけないだろう? 」

それもそうだ。

業務的な話しかしたことがない相手に影武者は務まらない。

私は自分に無理やり納得させた。

「ほら、おいで」

柵の向こう側から手を差し出してくる。

その顔はとても穏やかで、昔を思い出させる。

それが演技だと分かっている。

分かっているのに、心は弾む。

私は考えるよりも先に、柵から身を乗り出し、向こうに渡っていた。

「風邪引いたら困るから」

それはそうだろう。

来週末には治るが、広がってはいけない。

「ほら、寝るよ」

「は、い」

緊張で返事もままならない。

今が夜で良かった。

きっと顔は林檎のように赤い。

そんな顔を見られるのはとても恥ずかしい。


 千春くんは先にベッドへ入り、手招きをする。

その端にちょこんと座り、そっと身を倒す。

「ほら、こっち」

肩を軽く引かれ、私の体は半回転する。

思った以上に近い距離にドキンと胸が鳴る。

「あ、えっと、おやすみなさい」

「うん。おやすみ」

私たちは眠りに落ちた。

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