第7話 やっぱり無理!
一人で入るには広すぎる浴槽に浸かりながら、色々と考えた。
千春くんは、なぜ私に婚約者のフリをさせるのだろう。
確かに私は礼をすると言った。
だが、フリにしてももっとよく知った人がいる。
その方が、共通の話題もあり、馬が合わせやすい。
それにもう一つ。
「千春くんの好きな人って、誰......? 」
もし、万が一、億が一、私だとしたら?
本当のことを言えば、どうなる?
いや、きっと信じてもらえないだろう。
どういう子か、というのは覚えているようだけど、名前は忘れているかもしれない。
私だって幼い頃よりは女性らしい顔つきになったと思う。
そもそも、私が深和さんに名乗った時、すでに千春くんはいなかった。
「分かるわけ、ないよね」
千春くんが私のことを好き、という理由は見当たらない。
やはり、どこかのご令嬢なのか。
はたまた、同じクラス、委員会の人なのか。
どんどん考えが悪い方向に行っている。
逆上せそうになり慌ててお風呂から上がった。
ネグリジェに着替え、髪を乾かし、ヘアコロンを少し。
いつもやっていることだが、今日は心臓がうるさい。
行かなければいけない。
そう思って部屋の前に立ってみるも、ドアをノックできない。
やっぱり、駄目だ。
こんな中途半端な思考のまま顔を合わせたくない。
そう思い、そっと自室に戻り、ベランダへ出た。
「どうして、私ではないの? 」
千春くんは私とは初対面だと思っているから当たり前と言えば当たり前。
でも、千春くんのことはたくさん知っている。
その自信はあった。
好きな食べ物も嫌いな食べ物も。
すぐ泣いていたことも、笑わせる方法も。
「怒ってるかな......」
「怒ってる」
突然隣から聞こえて振り向くと、腕を組んで千春くんが立っていた。
確かに少し不機嫌そうだ。
「いつからそこに......? 」
「今さっき......で、俺の言ったこと忘れてないよね? 」
にこやかな笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
私は、どうなるのでしょうか......。
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