第3話 懐かしい屋敷

 約束通り放課後に3組の扉の横で待つ。

周りから少々視線を感じるが、それどころではない。

どうしよう。

私自身、自分で家事をする、ということすら滅多にない。

果たしてやっていけるのだろうか。

「......本当にいた」

「帰りましょう」

「家には連絡してあるから、帰ったら速攻着替えろ」

「かしこまりました」

少し言動がきつくなった印象がある。

幼い頃はもっと......優しいお兄ちゃんみたいな。

同い年だから兄も何もないけれど。

顔つきも変わった。

それは、成長もあるのかもしれないけれど。

ダメだ。

こうやって過去と比べるのは。


 車に乗り、千春くんの家へと向かう。

車内は静かで、ウトウトしてしまう。

「寝ててもいいぞ」

「......はい」

お言葉に甘えて、少し休むことにした。

意識して頭を千春くんとは逆の方向に傾けた。

それは、”メイド”として失礼にあたるだろうということは私にもわかった。


 「着いた」

その声に目を開くと、見たことのある建物。

懐かしい、千春くんの家。

家というには広く、屋敷、というのが適切か。

門をくぐり扉を開け、使用人が並んでいるところへ向かう。

メイド長らしき女性の前へ立つ。

「本日付で働かせていただくことになりました、麗です」

静かに頭をさげるが、反応はない。

あまり歓迎されていないのか、と恐る恐る頭を上げると、見開かれた目があった。

そして、あたりを見回した後、そっと私に問いかける。

「苗字は......城ヶ崎でよろしい? 」

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