第2話 要求


 でも、きっと彼は気づいていない。

だから、初めて会ったようなフリをした。

「引き止めていただいたこと、感謝いたします」

「別に、どうってことない」

「何かお礼をさせてください」

私の善意......と言っては失礼だけれど、そう思って言った言葉。

言っていなければ、どうなっていたのだろう。

想像もつかない。

「礼、ねぇ......」

千春くんはしばらく考えた末、衝撃の発言をした。

「俺の家で働け......メイドとして」

「は......はい? 」

「聞いていただろう」

聞いていた。

だけど、聞いていたと理解したは別問題だ。

思考が追いつかない。

私が?

メイドとして?

私これでも......いや、やめた。

言い出したのは私。

素直に受け入れよう。

「かしこまりました。朝比奈千春様」

「俺、名乗ったっけ」

しまった。

そう思いながらも頭は言い訳を考える。

「生徒会長でいらっしゃいますよね」

「そうだけど」

頭ではどんどん言葉が浮かぶ。

そして、自分でも驚くほど滑らかに口が回る。

「自分が通う学校の生徒会長の名前くらいは覚えています」

生徒会長だから覚えていたというのは嘘。

もう一つ言えば、生徒会長、と言ったのは当てずっぽうだった。

「......そうか」

「クラスは3年3組でよろしいですね? 」

「ああ」

私の隣のクラス。

優秀だと聞いている。

毎年生徒会長はだいたい3組から出る。

「お迎えにあがります......では、お先に失礼させていただきます」

私は”朝比奈千春のメイド”としての顔になった。

幼い頃のように、笑い合うことは今後、きっとない。

それでも、そばにいれるのなら幸せだ、と思ってしまうダメな自分がどこかにいた。

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