Ⅴ:エピローグ
あれからどのくらいたったのか、ふと目が覚めると抜けた天井から夜空が見えていた。
「目が覚めましたか?」
頭上から声が降りてくる、意識が冴えてくるとふと頭にやわらかい感触を感じる。
目をパチパチさせながらぼけーっとしているとリアが顔を覗き込んできた。
どうやら膝枕をされている状況らしい。
「あ、あぁ…………」
身体を起こそうとすると急に力が入らなくなって起き上がれなかった。
「まだゆっくりしてていいんですよ」
「すまん……」
リアの言葉に甘えてもうしばらく横になる。
「激動の二日だったな」
「えぇ、でも……少し良い二日でした」
「そうなのか?」
「えぇ、だって――」
再びリアが顔を覗きこんできて笑顔で答える。
「貴方と会えたから」
「俺もリアと会えて良かったと思うよ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ」
そう答えるとリアは俯きながらありがとうと言った。
「…………せっ、……せっ……」
どこからか声がする、微かな声でなんとか聞こえる声。
声のするほうに耳を集中させ視線をそちらに移す。
「押し倒せっ……」
クラナが柱の影から何か言っている。
「………………」
リアが顔を赤くしながら黙り込む、多分聞こえてるみたいだ。
「そ、そういやクラナが近くにいるけど……魔力は戻ったんだよな、大丈夫なのか」
「あれ、そうえいば……」
今クラナとリア達の距離はわずか数メートル程度だ。
「それは今の魔王の魔力の大部分をお前が持っているからだ」
クラナの背後から天使のシェムが現れる。
「魔王の権能も言わば魔法のようなものだ、その威力や力は魔力に依存する、そしてその魔力が少ないとなれば当然弱くなる」
「つまり今予備タンクみたいになってると……」
「まぁそうなるな、後面白ェモン拾った」
ひょいっとシェムが右腕で掴んでいたものをこちらに見せる。
それは首根っこ掴まれぶらんとしている銀色の髪の少女だった。
「離しなさいよ…………」
「おうこいつ誰だと思う?」
手足をぱたぱたさせてもがくのを無視しながらシェムは問いかける。
「……もしかしてライラですか?」
「…………そうです」
「えっ」
まさかの本人発言に驚く、栄光の知っているライラはもっと大人のような姿なのだから。
「まぁ…………諸事情ですよ…………」
「ハハハ、面白ェだろ、帰ってくる途中で拾った」
「拾ってくれたことには感謝しますが本気で怒りますよこの色天使……!!」
ライラがガルルルル喉を唸らせ怒りを示す。
「はは……まぁ、今後はリアが回りのことで悩むことは無いということか」
「いや、放っておくと魔力は時間が経てば元の持ち主へ戻るぜ」
「本当か……どうやって維持すればいいんだ?」
栄光がシェムに聞くとニヤニヤ笑って答えない。
「そうだなぁ……そりゃちと特別な方法でなぁ、お前の行動が必要なんだが、やるか?」
栄光は身体を起こしてシェムを見て、リアを見る。
「あの、無茶なことでしたら別にいいんですよ? 私は慣れてますから」
「そういうのに慣れたダメなんだよ、まぁそれは無理な話だってのは理解してる、教えろよ、何だってやってやる」
「ん? 今何でもするって言ったな」
先ほどからニヤニヤしているシェムがさらに笑ったように見える。
「…………まぁ、うん、俺にできることならな」
「なぁに簡単だ」
右腕で持っていたライラを落とし踵を返して去ろうとする。
「一日一回はキスしとけ、それかヤってもいい、それで維持できるぜ……」
そう言い残すとシェムは去って行った。
「場所なら貸すさかいに致す時は声かけぇな」
コココと喉を鳴らし笑いクラナも自身の空間へと去る。
「そのような不埒な事……」
背後から声がする、くぐもった声でまるで地面の下から聞こえるような。
振り向くと上半身が埋まったヴェルドロッドが足をバタつかせもがいている。
ポンッ
そういう音が聞こえるような動きで地面から脱出する。
「させんぞ小僧――」
鬼の形相で栄光を睨むヴェルドロッドの後頭部をライラが飛び上がり蹴り倒す。
一撃でヴェルドロッドは沈み沈黙する。
「お若い二人に任せるわー、まぁ今の私のほうが若いのだけれど」
ずーるずーるとヴェルドロッドを引き摺ってやがて見えなくなる。
残された二人は呆然とする。
特に栄光は冷や汗を流しながらリアの方を向けずにいる。
「栄光」
静寂に包まれた空間でリアの声がよく響いた。
「あ、あー……シェムの奴もいやなこと言うよなぁ……、ほら、リアもやりたくは――」
栄光の言葉は途中で遮られた、リアが自身の口を使って栄光の口を塞いだから。
両腕を首に回され逃げられない状態で、湿った音が響きながら、長い時間を感じたがそれはものの数十秒で終わりを告げる。
「はっきり言いますけど、私は貴方が好きですよ」
「……っ、昨日今日出会ったばっかの男だぞ」
顔を真っ赤にしながら、栄光はは問う。
「えぇ、それでも私は貴方に惹かれました、私じゃぁ、ダメですか?」
「っ…………リアってさ、結構大胆だし積極的だな……」
「今を取り逃して後悔はしたくないので」
総数的に少ない魔族は人間のようにとっかえひっかえとはいかないのだろう。
ただ今はそういう野暮な考えは仕舞っておく。
「全く、これじゃ帰れないな」
「どうしてもというなら私が栄光の世界とやらに行ってみたいですね」
「辛いぞ?」
「貴方と一緒ならどこだっていいです」
お互いが腕を回して抱きしめあう、一時を一瞬にして一瞬を永劫に願う。
世界を超えた愛に、栄光あれ《グローリア》。
◇
「世界を超えた愛、あぁ何たる甘美な響きだろうか」
戦闘によって地形が変わった荒野でローブの男が一人呟く。
「この身になり初めての物語、素晴らしいものだ」
ローブが風を受けてはためき男は踊るように回る。
「あぁ、栄光あれ、彼らの未来に」
一時回ると少しずつ止まっていきやがて一人の男が倒れた元へとローブの男は立ち止まる。
「しかしながらこれで幕切れはなんとも勿体無い、故にまだ働いてもらうぞ」
倒れている男の名はアルデント、先の戦いで瀕死ながらも未だ生き続けていた。
「彼の
気づけばローブの男はそこになく、またアルデントも姿を消していた。
盤上の魔王と盤外の希望 @redbat
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