第17話 惚気る屋根の下

その夫婦は、とても仲が良かった。

残念ながら過去形なのだが。

今は別々の道を歩んでいると風のうわさで耳にしている。


私は2人が仲が良かったころしか知らないので、良い夫婦だなーと思っていたし、「家と嫁が大好きだから早く帰ります」と言い切って会社の飲み会をバックレる旦那に、当時の職場の人たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。


実際、嫁と猫と音楽に囲まれた生活で、旦那は幸せだったと思う。

子供が出来ないのはもともと承知で、幼馴染と結婚したのだと聞いた。

それが、どのような形でひびが入ってしまったのかは知らない。

だが、職場で普通に惚気る旦那の顔は新婚でもないのにキラキラしていたし、まだ独身だった私に、「惚気られない結婚なんてするものじゃない」とのたまった。

実際、その言葉は私の中で格言になり、夫との結婚を決めたときも、この人だったら惚気られる、と確信をもって結婚したし、今でもいくらでも惚気られる。


旦那の惚気話は、大きなものではなかった。

日々の、ちょっとした気付きだったり、気遣いだったり、そんなものだった。

だけど、それは私には理想の夫婦像に思えたし、旦那の惚気を聞いていたからかもしれないが、今でも他人様の惚気話は大好物だ。


それがどうして・・・と思う。

だが、まぁ何かはあったのだろう。

個人的には、残念でならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る