第4話 3つの屋根の下

独身の彼女には屋根が3つある。

実家と、養子に出された先と、改めて引き取られた実父と継母で構成されているのがそれだ。


国語教師だった彼女は、定年退職を見据え、英語の勉強をし、今はアメリカに留学、医者を目指して学生をしていると聞く。

最後に会ったのは何年前になるだろうか、ビザの関係で帰国した際に時間を作ってもらい、連絡先を頂いたのだがうっかり無くしてしまったせいで、以後連絡が取れなくなっている。


まだ1つ目の屋根の下にいたときに、彼女に「家族の愛って何だろう?」と問うた。

当時はまだ自分の出生について知らされておらず、それでもどうも他の家族とは違うようだと感じ始めた我が家をどうにかしたくて、1人でもがいていた。

彼女の生い立ちは知らなかったが、なんとなく、彼女なら当時の私の疑問に答えてくれるような気がしたからだ。


そこで、彼女は彼女なりに清算していた自身の過去と今を淡々と語ってくれた。

そこに直接の答えはなかったけれど、話を聞いて、私は家族を愛してみようと思った。

そうしたら、歪な何かが変わるかもしれない、我ながら健気な当時はそう思ったのだ。

その後、出生を知らされて、愛そうとする努力を止めたのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る