3-12.鴉の裏切り

 銃はクロスボウ以上に手軽で、殺傷力の高い武器だ。撃つだけならば大した修練を必要とせず、最近では量産化も進んでいるため資金さえあれば大量に調達することもできる。

 しかし、それでも技術が意味を成さないわけではなく、達人と素人の間には埋めがたい溝があった。

 構え、狙いを定め、そしてトリガーを引き絞る決意をする。そこに生まれた数秒間の隙は、真の強者にとっては十分すぎた。


 雨のとばりの中、いくつもの銃口が火を噴く。

 廉価品の安っぽく乾いた破裂音は、しかし続く轟音に呑み込まれた。

 炎の壁が突如として出現したのだ。厚い雨雲の薄暗闇を、灼熱が明るく照らし出す。


「雑な銃撃だ。なにもしなくても当たらなかったんじゃないか?」


 リュークは周囲の建物から銃を持った者達が見えるや否や、アリアを背後に庇って剣を抜いていた。

 聖剣から迸った熱き紅は安価な銃弾を容易く吹き飛ばし、スコールを触れるそばから白い蒸気へと変えている。


「湿気が多い土地なのに、火薬の管理がお粗末すぎ。半分くらい不発じゃない」


 シャルは鼻を鳴らして嘲り笑った。

 彼女を守護しているのは、魔領域《腐肉迷宮アビス》に生息する魔物、《岩の巨人ゴーレム》と呼ばれるものの一種だ。色こそ漆黒だが、その頑強さは本物と遜色がないか、それ以上だ。鉛玉では百や千を叩き込んだところで意味はない。


 突然の事態に呆然とするアリアの隣で、小さな人影がぐらりと傾いた。

 それは力なく石畳に沈み、ぴくりとも動かなくなる。足首まで溜まった雨水の中に、赤い鮮血がどろりと流れた。


「テオ!?」


 アリアは悲鳴を上げ、横たわったテオに手を伸ばした。だが触れるまでもない。亜音速で飛来する鉛弾の威力は、少年の華奢な身体にとっては致命的だ。


「一人、仕留めたぞ!」

「前衛、前へ! 後衛は次弾装填! 急げ!」

「俺達を後ろから撃つなよ!」


 炎と影に気圧されていた襲撃者達は、その事実に奮い立って気炎を吐いた。

 建物や物陰から、武装した者達が次々と姿を現す。事前に示し合わせていたのか、ものの数秒で屈強な戦士達が陣形を組んでアリア達を取り囲んでいた。

 その中から、肩に治安維持部隊の紋章を刻んだ指揮官が進み出て、袋の鼠達に向かって声を張る。


「お前達は完全に包囲されている! 武器を捨てて大人しく投降しろ!」

「投降したら、どうなるんだ。俺達の首にかかっている懸賞金を分けてくれるのか?」


 リュークの挑発も負け惜しみと見たか、彼らの余裕は少しも揺るぐことはない。脳裏には既に、多額の報酬を得て豪遊する自らの姿さえ浮かんでいるのかもしれなかった。

 どれほど強いのだといっても所詮は人間、一つの銃弾で呆気なく命を落とす。

 それが彼らの認識であり、そしてそれは正しく真実なのだ。


「断頭台で苦しまずに死ぬ権利をやる……というのはどうだ?」

「そりゃ魅力的だ」


 軽口を返しながら、リュークの碧眼は油断なく周囲を探っている。

 カレヴァン南門を臨む通り、その中央での襲撃だ。建物の上階から銃を撃つことで同士討ちを防ぎ、最初の斉射で仕留めきれずとも速やかに逃げ道を塞いでいる。練度は低いが組織立った動きが取れていた。二度目の射撃を即座に準備する周到さもある。

 これは入念に練られた計画――《寝惚けた黒獅子亭》の支配人がばら撒いたという偽の情報を掴まされて街を右往左往しているという者達も、この待ち伏せを隠すためのブラフに違いなかった。

 こんなところで討伐される気はない。だが、アリアやテオを守りながら切り抜けるのは骨が折れそうだと、リュークは覚悟を決める。


「お話はいいけど、もうちょっと周りに気を配った方がいいんじゃない」


 この場に似つかわしくない、つまらなそうな声がした。

 それは、シャルだ。濡れた赤毛から滴る水を煩わしそうにしながら、白けた眼で彼らを見つめていた。

 否、彼女の視線が向かうのは自らを包囲する戦士ではない。

 その背後の、黒い影だ。


 リュークは驚愕に目を見開く。まさに今の今まで彼らと対峙していたはずなのに、それが出現した場面を捉えられなかった。

 漆黒に塗り潰されているが、見紛みまがうはずもない。《空の森》に棲む魔物だ。

 それも一つや二つではなく、この瞬間にも増え続けている。種類は多種多様、一致しているのは全身を染める色彩のみ。それらはまるで合図を待つかのように佇んでいた。

 音もなく後ろを取られた衝撃に、そこかしこで狼狽の声がする。先走った銃声も鳴り響き、恐慌が湖面の波紋のように広がった。


「これは、一体……」

「アリア。そこ、危ない。ちょっと下がって」


 混乱は、それだけに留まらない。

 シャルに引っ張られて後退したアリアは、なにもない地面から這い出してくる姿を目撃して、息を呑んだ。キラー・マンティス、アリアが苦手としていた魔物そのものだ。

 それは瞬く間に現出すると、身震いして体の具合を確かめてから、前進を開始した。同じように生まれた使い魔の群れが、その後を追従していく。

 そして開拓者討伐隊の面々は、敵を追い詰めていたはずなのに、前後から挟撃を受けていることを知った。


「お前達は完全に包囲されている!」


 シャルが吼える。意趣返しの口上は、しかし行き当たりばったりの思い付きだったようで、言葉に詰まって黙り込んだ。しばらく気の利いた文句を考えて思案顔で首を捻っていたが、すぐに諦めて、まぁいいや、と呟く。

 そして、口の端を吊り上げた。

 まるでどこかの誰かに似る、獣じみた悪辣な笑顔だ。


「死ね」


 無慈悲な宣告が見えないくびきを外したのか、影の魔物達が動き出す。

 咆哮はない。命じられた殺戮を成し遂げるための行動は、どこか機械的だった。


 怒号と剣戟の響きに包まれながら、アリアは愕然としている。

 シャルは自らの異能を使い魔と言っていたが、これではまるで《軍勢レギオン》だ。

 狙撃手が潜んでいた建物内部からも銃声が轟いている。そこでも戦闘が行われているのだとすれば、彼女は離れた遠方のみならず、視認できない屋内にすら一瞬で使い魔を送り込めるのだ。

 か弱い女の姿をしながら、ただ一人で無数の魔物に匹敵する戦力。

 開拓者――世界を滅ぼす者。その意味を、哀れな者達は身を持って体感する。


「こら、シャル。やりすぎだぞ」


 不意に近くから聞こえた声が、アリアをぎょっとさせた。

 凶弾を受けたはずのテオが、いつの間にか立ち上がっている。


「貴様、撃たれたのでは……」

「なに、演技だよ。あそこでが倒れていなければ、連中は警戒して退いていたかもしれん。それでは面倒だ」


 なんでもないようにテオは笑うが、アリアは確かに流れる大量の血を見たはずだった。しかしそれも豪雨の中に溶けて、あれは夢か幻だったのではないかと困惑する。


「それより、気になることがある。リュークよ、情報を引き出すのだ。あれが指揮官だろう」

「人遣いの荒い……」


 リュークはぼやきながらも、灼熱の聖剣を片手に黒き岩の巨人の陰を飛び出した。未だ戦いは続き、狙撃の恐れもあるというのに、その動作に躊躇いはない。


「私は……」

「アリア、君は余と待機だ。撃たれたくはあるまい? 痛いぞ」


 冗談めかしたテオの言葉をそのまま受け取れるほどアリア――その身体に宿った魔剣クローディアスの意思は素直ではない。

 結局は、武器が強いだけでは力不足なのだ。もし守られていなければ、アリアは銃弾を浴びてしまっていただろう。

 リュークのように強力な武具を自在に操る力があり、シャルのように戦況を支配できるほどの図抜けた異能でもなければ、この過酷な環境を生き抜けない。

 スバルを見捨てて保身に走ったのは、正解だったのだ。

 その考えは納得の安らぎと、刃の傷にも似た鋭い苦痛を心に与えた。


 そしてリュークは、懊悩おうのうするアリアを余所に、シャルの使い魔と対峙する者達に近づいていく。

 前衛の戦士は、荒事慣れした連中の寄せ集めだ。洗練されていない陣形は跡形もなく崩壊し、複数の集団に分断されている。しかし人外の怪物と戦い慣れている冒険者を中心として、少なくない犠牲を出しながらも善戦していた。

 皆、軍勢の源がシャルロッテであることに勘づいている。だが尽きることなく増え続ける黒い波が、一瞬たりとも余所見を許さなかった。


 リュークは、その奮闘の背後から密やかに接近する。

 袈裟懸けさがけの斬撃は、まさに宙から襲いかかる蜂の魔物と相対していた冒険者を、背中からばっさりと斬り裂いた。

 哀れな犠牲者が二つになって崩れ落ちるのを見届けることもなく、こちらに気づいた傭兵に向き直る。

 上段から振り下ろされる棍棒は、鈍い音を立てて粉々に砕け散った。ガントレットに包まれた拳が、真正面から殴りつけたのだ。それはいかに木製とはいえ鉄の鋲を打たれた強力な打撃武器だ。本来なら人間の肉体が耐えられるものではない。

 愕然とする彼の顔面を、その白い手甲が掴んだ。


「た、助けて……」


 弱々しい懇願。

 リュークは、美麗な面をにこやかな笑みに変える。


「却下だ」


 そして次の瞬間、その手が爆裂した。

 至近距離の小爆発は男の頭部を吹き飛ばし、頭蓋の破片を周囲にばら撒く。しかしリューク自身の腕は何事もなかったかのように健在で、衝撃にダメージを負った様子もない。

 その轟音でようやく標的の接近に気づいたのか、戦士達は凍りついた。尻尾を巻いて退くか、一攫千金のために挑むか躊躇したのだ。


 リューク・レヴァンス――遠く離れた公国の騎士団長だった男。彼の率いた騎士団は炎を自在に操るとされ、特徴的な白い鎧から《白炎の騎士団》とたたえられていた。

 もっとも、その本質は狂気的な殺人者であり、追っ手から逃れながらも多くの人間を惨殺している。それでいて頭も切れ、彼が指名手配までされたのは公国での一件、それが最初にして一度きりだ。

 多額の懸賞金もさることながら、彼は大公からたまわった聖剣を所持したまま逃走していると知られている。国宝級の業物は、戦士にとっては垂涎すいぜんの的だった。


「悪いね。少し急いでるんだ」


 聖剣の熱と裏腹に、声は冷徹そのものだ。

 炎神の遺物だと伝承に語られる得物から、形ある炎が放たれる。それは鞭のようにしなりながら伸び上がり、何人かを薙ぎ倒した。

 彼に気を取られた者は背後からシャルの使い魔に襲われ、呆気なく命を散らしている。


 一人だけ炎と影の暴威を免れた男は、逃げようときびすを返すが足をもつれさせて転倒した。

 無様に這うその背中を、白鎧のグリーブが押さえつける。


 リュークは彼を仰向けに蹴り転がすと、その腹にどっかり座り込んだ。武器を振ろうとする両腕を踏みつけ、地面に縫いつける。

 治安維持部隊の男は、その腕がまったく動かないことに戦慄した。

 着飾れば貴族の子息にしか見えないような優男だというのに、なんという豪力だろうか。


「聞きたいことがある。君、俺達がこの場所を通ると、どうやって知った?」


 リュークは単刀直入に問うた。

 今日、一行が街を発つことになったのは、テオの過失による偶然に過ぎない。

 だが、この待ち伏せは周到に準備されていた。それだけがどうにも腑に落ちない。


 男は多少の矜持を持ち合わせていたのか、口を引き結んで敵愾心に燃える眼でリュークを睨んでいた。

 リュークは鼻を鳴らし、押さえ込んでいる彼の両腕に視線を這わせた。剣を握る手は、右。


 ひゅん、と聖剣が空を裂く。

 男の絶叫が弾け、雨音に混じった。身体から切り離された左手が、一瞬で炭化してぼろぼろと崩れている。あまりの高温に痛みはなかった。傷口も黒く焼き尽くされ、出血はない。それがひどく不気味で、彼を恐怖させた。


「情報源は?」


 男は黙ったままだ。

 また、赤い軌跡が躍った。

 今度は、左腕の肘から先が失われる。


「次は肩だ。その次は、右手。利き手をなくす前に話した方が賢明だと思うけどね」


 語りかけながら、リュークは何度も剣を振った。その度に、男の腕が少しずつ細切れにされていく。燃え残った肉片をつまみ、絶叫する口に放り込んだ。男は激しくむせ、自分のものだった肉の欠片を胃液ごと吐き出す。

 もはや、心は砕けていた。

 赤熱する刀身が再び掲げられるのを見て、ついに震える声で言う。


「た、探索者の女だ」

「探索者……だと?」

「エレオノーラだよ! 売られたのさ、お前らはな!」


 告げられた名は、リュークの身体を硬直させた。

 その動揺を嘲笑うように、男は続ける。


「い、今頃、あのスバルとかいう奴も追われてるだろうぜ。あのジャスティン隊長が直々に……」

「情報提供に感謝するよ」


 もはや男の言葉など聞いていないのか、リュークはおもむろに立ち上がった。

 あっさりと解放されたことに、男は拍子抜けして目を瞬かせる。だが、次の瞬間には復讐心に歯を剥いていた。放り出されていた剣に、残された右腕を伸ばす。

 その手が、燃えていた。赤々とした業火だ。

 慌てて足元の雨水に腕ごと浸すが、火は消えるどころか勢力を増していく。鉄のプレートや濡れた服をも焼き、それは男の肌にまで達した。

 男は決して鎮まらない熱に身体の末端から徐々に焦がされて、長い時間をかけて消し炭になっていく。


「これを彼らに知られるのはまずいな……」


 リュークは壮絶な断末魔を聞きながら、焦燥に歯噛みしていた。

 エレオノーラ――彼女の裏切り。この事実に対する開拓者達の反応は予測がつかない。


 ふと、その視界の隅でなにかが蠢いた。

 物陰から覗いていた溝鼠どぶねずみ、その色は黒。なんとなく気まずげに、顔をごしごしとこすっている。


「……あー、えっと……ごめん。聞いちゃった」


 それがシャルの声を発したことに、もうリュークは驚かない。

 どこか申し訳なさそうな鼠に苦笑いしながら、がっくりとうなだれた。



 ◇ ◆ ◇ 



「ノーラに、売られた? どういうことだ!」

「ちょっと、その子を責めてもしょうがないってば」


 シャルの手に乗っていた小さなカエルはアリアの剣幕に怯えて、ぴょんと跳ねて影に沈んだ。

 それは別の使い魔が見聞きしたものを共有し、その口からリュークの拷問を実況中継していた。そしてわかったのは、消えたノーラが治安維持部隊に協力しているということだ。


 これがただの裏切りならば、まだ余裕はある。

 だが、事は《鴉の眼》――類稀たぐいまれなる頭脳と勘、豊富な経験を持つ探索者の離反だ。

 彼女ならば開拓者のスバルへの信頼を読み取り、彼らが近くカレヴァンを去ることを推理できたはずだ。あるいは、結界の魔法を実現する塗料の劣化、そしてテオの性格まで考慮して、早々の出立を予言したのかもしれない。

 いずれにせよ、この待ち伏せは彼女の協力なくして計画することはできなかった。その事実が、彼女の裏切りが真実であることを証明している。


「あのエレオノーラ嬢が寝返らざるを得なかったのだとしたら、それが示す未来は一つ。覆しようのない破滅……といったところかな?」

「暢気なことを言っている場合か!」


 テオの身体を揺さぶりながら、アリアの心では焦慮が渦を巻いていた。

 我が身の心配ではない。出口を目前とした場所での罠を一蹴したのだ、逃げ出すことは難しくないはずだった。

 問題は、スバルだ。

 今もまだ街の只中で戦っているだろう男は、たばかられていることに気づいていないだろう。


「くそ……迂闊だった! その異能でスバルに連絡を取れないか? 奴に伝え損ねたことがあるのだ!」

「うーん、どうかな? ちょっと遠すぎてなぁ」


 シャルはどこか煮え切らない態度で、頼りない。それが腹立たしく、アリアは再び悪態をついた。

 スバルのことを、信じていないわけではない。だが、あのおそるべき戦士をすら凌駕する可能性を秘めた者がいるのだ。

 治安維持部隊隊長、ジャスティン――以前、一度だけスバルとも対峙した男だ。


「ジャスティンは空間転移の異能を持っている。あの技の前では、どれほど速く、力強くても意味がない」


 かつて、武力をかさに着て好き放題をしていたライアン・レッドフォードを屈服させたのも、ジャスティンだった。

 勝負は互いに武器を手にして、数秒で決着がついたという。

 レッドフォードは一歩も動けず、その背後に転移したジャスティンに剣を突きつけられて敗北した。アリアを圧倒し、スバルの得物を破壊するまで戦い抜いた男でさえ手も足も出なかったのだ。


「空間転移だって? なんとおそろしい……事前に知っていなければ戦いにすらならないではないか!」


 テオの狼狽から、空間転移という異能が稀有でおそろしいものなのだとアリアは悟る。

 その能力があれば、一流の暗殺者も、屈強な傭兵も、ほんの一瞬で首をかき切られてしまうだろう。

 あるいは一対一であればスバルは互角に戦えたかもしれない。

 だが大勢に囲まれ、銃口に狙われた中で、異能の刃を防げるだろうか。


 知らせなければ。

 その焦燥は、アリアの胸を焦がした。


 だが、冷静な部分が熱を制止する。

 最も激しい戦闘が繰り広げられているだろう区画に踏み入れて、無事でいられるだろうか?

 魔剣クローディアスの力があったとしても、不死身ではない。アリアの肉体を守り抜くことは、おそらくかなわないだろう。それはスバルの本意でもないはずだ。

 このまま開拓者と共に逃げ延び、新たな居場所を探すのが愛しい少女のためではないのか。

 たとえ、そのために彼を見殺しにしてでも。

 その身体に宿ったクローディアスの精神は、苦悩から面を歪めた。


「……私は……」


 絞り出すような声は、続く言葉を紡げないまま途切れた。


 吹き荒ぶ突風――それは、すさまじい闘気が錯覚させた圧力だ。

 突然、即席の防壁となっていたゴーレムが動き出す。そしてその直後、いくつかの衝撃が岩の身体を震わせた。

 巨躯が傾き、ゆっくりと地に沈む。

 岩石の胸部に突き立っているのは、一振りの剣だ。それは銃弾すら防ぐ身体を容易く貫き、内部に隠された核を破壊していた。


 変化は、それだけではない。

 彼らを圧倒していたシャルの使い魔達が、同じように鋭い投刃を受けて倒れている。

 全滅を目前としていた生き残りの兵士達は、絶望と驚愕を、希望の感情へと変えた。救いの正体を、知っていたからだ。


 雨に霞む景色の向こうから、一つの人影が現れた。

 大きな外套を纏い、全身に大小様々な無数の刀剣を帯びた大柄な男。腰に提げた、一際大きな剣は、二振り一対の双剣だ。


 バートランド・ギル。

 冒険者ギルドの長にしてカレヴァンの支配者。

 最強の英傑が、開拓者の前に姿を見せたのだった。

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