第3話 003【鈴凛学園 高橋 剛サイド】
「ごめんね」
僕の手をがっしりと
ま、眩しい。笑顔の破壊力が
体ごと突進してきて僕にダメージを与えておいて、なぜにこんなに背中に花をしょって微笑んでいるんだ?
僕には彼女の背後に、何輪もの花が見えた。
「大丈夫?痛くなかった?」
「い、痛くないです……」
こんな聞き方をされて、痛いです、なんて言えないよな。痛くないよね?と笑顔で迫られているに等しい。
きらきら光る爪を持つ女の子は僕から手を離すと、よかった、と僕の頬に触れた。
なんだ。すごくみられているような。
さっきはこの娘の爪が手に食い込んで痛かったのに、今はもう……。
どきどきあわあわしていると、ふちなしメガネ氏が我々に割って入ってきた。
「大丈夫ですか!青山さん!」
すみません。激突をくらった、僕の心配もしてください。
ふちなしメガネ氏は、青山さんという名前らしき女の子の心配をしている。
僕の心の
「大丈夫だよ。私が彼に突進しちゃったの。新入生案内の途中だったんでしょ?ごめんなさい」
「怪我をされていらっしゃらないのなら、安心しました。青山さん、彼は本日入学してきた1年の
「私は、
青山さんは、そのまま僕の腕をひっぱって歩き始めた。えっ?
「
ちょっと状況が飲み込めないが、黙ってついていくことにした。
ふちなしメガネ氏が、落ち着いた顔で見送ってくれたからだ。きっと学園のルールなんだろう、これは。
青山さんは、変わった服装をしていた。周りを見渡すと、他の生徒たちはブレザーの制服(女子はスカート、男子はズボンだ)か、
学校指定のスポーツウェアを着ていた。ウェアの種類は多少違っても、テニスや野球やサッカーなどの専用着だ。
しかし青山さんは、体にとてもフィットした黒づくめのつなぎ状の服を着ている。腕は長袖なのだが、足は太ももからまるだしだ。
とても、寒そうだ。学園内では、4月には涼しいくらいの空調が効いているし。
片側の太ももにはガンホルダーが巻きついていて、頭のキャプと背中に、白く『SWAT』の文字がプリントされている。おまけに、ローラースケート着用だ。
SWAT。青山さんは、アメリカから派遣された特殊部隊なのだろうか。
でも、SWATがこんなに露出をするはずがないよな。肌の露出は戦うときに危険だろうな。
第一、SWATはローラースケートを履いて移動なんてしないだろうな。
もしかすると、彼女はサバゲー部に所属しているのかもしれないし、学園の平和を守るタスクフォース(ごっこをしている生徒)なの
かもしれない。
彼女の為に、格好の事は触れないでおこう。
「スワット、からのローラースケート」
まずい、思わず自分に囁いてしまった。青山さんはいつの間にか女子生徒達に囲まれて、あの破壊力に溢れた笑顔で応対していた。
よかった、囁きには気づかれていないらしい。
「剛くん、こないだの入学式にはいなかったよね?外部生は目立つから、剛くんに気づかないわけがないもん」
華やかな輪の中から滑り帰ってきて、青山さんは僕の腕を掴んで停止した。
「虫垂炎になってしまって、入院していたんです。一週間程、高校デビューが遅れました」
「同じ学年なんだし、敬語はやめようよ、ね」
さっきのふちなしメガネ氏は青山さんに対して敬語じゃなかったか?
青山さんは、さっき僕達がぶつかった場所から上へ伸びるエスカレーターで、中2階へ案内してくれた。
ラウンジスペースでお茶をしている人もいる。奥には、赤外線ビーム式のセキュリティゲートが30機程、横並びに存在していた。圧巻だ。
先ほど事務所で受け取った電子学生証をタッチすると、透明のゲートが緑の光を放ち、開いた。
「このゲートの先は、学園関係者だけが入れるエリアだよ。鈴凛学園はセキュリティチェックがいっぱいあって、ちょっと大変なんだ。でも、マスコミとか襲撃事件対策だから私達は助かってるんだよ」
富裕層の子息が通う学校には、やっぱり物騒な事件もあるのか。それでSWATスケーターが活躍するのだな。
「私立高校の中でも、鈴凛学園はちょっと特殊な立ち居地なんだ。両家の家柄の子は、もっとお上品で伝統的な名門校にいくしね。
そんななかでも、セキュリティを第一に考えてる人は、子どもをここに入学させたがるみたい」
「確かに、ここなら学校行事にテレビカメラは入ってこれなさそうだね」
入院中にテレビでみた、国民的金メダリストの卒業入学式を追うワイドショーを思い出した。
あれじゃ、他の生徒達は記念の写真をゆっくり撮りあうことは難しそうだ。
「剛くんは、どうして鈴凛学園を選んだの?」
ぼくが鈴凛学園を受験して入学した理由。本当のことは、とても言えやしない。
「電脳部で活動してみたいんです」
電脳部とは、鈴凛学園内の公式部である。部名は怪しさでいっぱいだが、電脳部は部長をはじめ、ウィザード級のハッカーやプロゲーマーも在籍する、
スーパーハイテク集団なのだ。
「でんのうぶ?」
青山さんの頭の中に、”?”が浮かんでいるようだ。あ、知らないんだ。
「鈴凛学園の電脳部といえば、ロボット人間コンテストで毎年上位に入賞しているし、去年は高校生アプリ開発コンテストで準優勝を獲ったんです!」
青山さんは笑顔で応えてくれた。
「そうか、剛くんは、ロボットニンゲンとでんのうぶがすきなんだね!」
電脳部の素晴らしさを、またひとつ広めることができたようだ。
青山さんの案内で、学園施設のうち半分くらいを見てまわった。
教室や図書室といった学校には必ずある部屋の他に、屋内にある人工芝が植えられたピクニックエリア、スパ、フィットネス、水族館、
プラネタリウムなどハイカラな施設もある。
「たまげた」
また無意識のうちに囁いてしまった。
「たまげたって言葉を使う人、はじめてみた」
青山さんに聞こえたらしい。笑われてしまった。
3時間程歩き続けた(青山さんは滑り続けていた)僕達は、ラウンジで休息をすることにした。
広々としたラウンジはとにかく明るい。床から天井まである窓ガラスが、東京タワーの展望フロアのように豪快に存在しているのだ。
もちろん、席に着くと窓にかぶりついて東京タワーを眺めた。
「すごいですね!東京タワーがみえますよ!」
東京タワーか。彼女が行きたがってたな。高校受験が終わったらデートしようと約束していたのに、僕の入院でうやむやになってしまったのだ。あとで写メを送ってあげよう。いつもみたいに、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれるに違いない。
東京生活1日目。僕は、彼女に写メを送信して眠りについた。
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