表初恋さくら通り.4
猫はいささか不得意とは言うものの、この『塀のむこう』がすっかり気に入った二人は、裏木戸からではなくもう一つのルートも知りたがったので、帰り道は以前こちらに初めてきたルートを使って帰ろうということになった。
この時間帯にあの寂しい道を通るのはちょっと抵抗があったのだが、とりあえずボディガードが二人と今まで夜遊びを共にしていたハセガワ一匹がいるのだから大丈夫だろう。
冬の冴え冴えとした月が思いの外明るくあたりを照らし、思った以上に闇深くなかった。むしろどこかで何か灯りが漏れているような気すらする。
先頭を行くのはふたばと最所、それからハセガワを抱いたひなこ。まるでカンガルーの子どものようにひなこのジャケットの中に収まり、首だけ出している猫はゴロゴロと満足気に喉を鳴らしていた。その後ろを私と京念がついて行っている。
ほんの一か月前まではこんな夜道をこの顔ぶれで歩くなど想像したこともなかった。なんとこの世の人の縁は不思議なものだろう、とふと感傷的になった私は「ぎゃあ」とも「ぐへぇ」ともつかぬ不思議な声で現実に引き戻された。
それは先頭を歩いていたふたばと最所が、あの細道のちょうど角に来たところで聞こえ、二人はそこに立ち止まって動かない。あの声、どうも悲鳴らしいのだが慌ててそこに駆け寄った私たちは同じ声を多分あげていた。
なんとあの道が――あの猫しかいなかったあの道がまるで縁日の夜市になっている。
「なに? なんなのこれ……?」
私たちはまるで狐に化かされているような気分だった。
レトロ感たっぷりのこの賑わいはまるで映画の撮影のためにわざと演出したのではないかと思えるくらい時代と逆行している。
「あ!」
と、声を上げたのはひなこで、その拍子にまるで赤ちゃんを抱えているように猫を抱いていた手が緩んだのだろう。ハセガワはすとんと地面に着地し、振り向きざまに「にゃあ」と一声鳴いて走り去っていった。
「どうしたの? なに?」
思わず小声になったのは、もしかして映画かテレビドラマの撮影中なのではないかという疑いが根強くあったせいだ。それ以外に、いや、そうとしか思えない。あの寂れた――というより誰にも気付かれないようなこの小道がこの時間帯に賑わっているなんて。人が、人間が笑いさざめきながら歩いているなんて。活気に溢れているなんて。しかもこの時間帯に。
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