表初恋さくら通り.2

 それからはまた忙しくなった。おおまかな配置を決め、あとは任せた好きにしなさい――と主人が出て行った後もどこに何を置くか私は店内を歩き回り、第一倉庫と第二倉庫の中からこの道具類が喜んでくれるような品々を見つけることに没頭し、時には咲良さんの部屋で心を落ち着かせてはまた配置を練り直し……といった具合であった。

 全てが収まるところに収まったと満足できたのはリニューアルオープンだという日の前日で、私たちは夕日が差し込む店内をしみじみ見渡し、がっちりと握手し合った。

「明日っからだねぇ」

「始まるんだねえ」

「これから、なんだよねぇ」

 感慨深いものがあった。一言では言い表せない思いは三人共通だった。

「よろしくね」

「よろしくです」

「よろしく、あねさん方」


 また同時に同じ言葉が出て思わず笑い出した時、かすかな猫の声が聞こえた。

「わあ、平蔵!」

 店の外にいた黒猫を慌てて入れてやる。

「あらら、もう一人の子……あ、ハセガワのほうかな?」

 ひなことふたばが二匹を抱き上げた。

「あ、まんまる!」

「こっちハート」

「はあちゃんとへいちゃんだ。そっくりだねぇ、あんたたち」

 二匹は二人の手からすとん、と床に降り立って店内をゆっくり一周し、次に真ん中にある古いグランド・ピアノの上にひらりと飛び乗った。そしてまるで置物のようにポーズを取ってみせた。

「気に入った? 合格?」

「なんだか似合いすぎてる。時々ここに座ってもらおう」

「招き猫ってやつ?」

 そう言って笑い合っているとドアがまた開いた。早速二匹はその仕事を実行してくれたようだ。


 開いたドアから現れたのは最所と京念だった。各々真紅と純白の大きすぎるくらいのバラの花束を抱いている。あまりにも大きい花束なので、入ってきた時は花束が入ってきたようで私たちは大笑いした。

 店内を見て感嘆の声を上げた二人をひとまず事務所に案内し、私は二人が持って来たバラを所々に配置し、そのうちの何本かは咲良さんの部屋にも飾った。

「明日から始めます。よろしくお願いします」

 そう掌を合わせ、そっとドアを閉める。

 事務所からはひなことふたばの賑やかな笑い声が聞こえる。どうも二人の男性は猫が苦手とみえ、平蔵とハセガワはそんな二人をからかうようにわざと二人の膝の上で香箱を組んでいる。

 意地悪くしっぽを動かすたびに大の男が飛び上がったり固まったりする様子がおかしいとひなことふたばは笑い転げていた。

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