表初恋さくら通り
表初恋さくら通り
近道をすればすぐそこにあるというのに、私たちは「また」の約束がなかなか果たせずにいた。
次の日からはひなことふたばが第一倉庫の整理を始めていたが、二人の報告によると床を覆っている商品のほとんどが、どこかの景品やら贈答品やらの類いらしく、なかにはつい先日まで使用していたと思しき日用雑貨も数多く、それらほとんどを処分するというもので、すでに主人の許しも得たのだという。
全くこの二人のすることはソツがなく、安心して任せていられるのだった。
「それにしても……」
ふたばがお気に入りのフレーバー・ティーをゆっくり味わいながらぽつりと呟いた。
「あれ、みんな買ったんですよね」
「あんなガラクタ、よく売りに来ますよね」
「本当に。初めのうちはこんなもんよく買うよな、馬鹿じゃないかと思ってたんだけど」
ひなこもそう続け、
「これを売りにくる人たちの心って、なんだか怖いと思った。その経緯もなんか、ね」
お止めしても、そこに至る人間ドラマがあるのだから、とおっしゃって――、と京念の言葉をふと思い出した。
「処分するときはお祓いしなきゃね」
私はそう呟き、あとの二人も小さく頷いた。
「ああ! そうだ!」
思わず大声が出た私に、ひなことふたばは飲んでいたコーヒーと紅茶にむせ返っていた。
「なんですかぁ、びっくりさせないでくださいよ!」
「私たち忘れてる! ほら、あれ! あの箱!」
「わ、ほんとだ!」
私たちが立ち上がった途端、店の方から声が聞こえた。
「おおい! ちょっと手伝ってくれんか!」
声の主は逢摩堂の主人のようだ。
「はあい!」
と、私たちが飛び出して行くと店の前にはトラックが停まっている。
「あんたが注文したもの持って来てみたんだが……どうだろう」
店内に運び込まれた品々は私が考えていた以上のものだった。
作り手の意図が伝わってくるそれらは一見素朴のようでありながら、余計な装飾を全て削ぎ落とした洗練された心地よさがあった。
洋の東西、そして南北も越えているだろうと思われる品々だが、押し付けがましさがないとでも言うのだろうか。何だか使い手の心も添えて初めてそのものが完成するといった一歩譲った謙虚さのようなものが運び込まれた家具たちから感じられた。
使われて初めて命が吹き込まれるのだ、という深い懐のようなものを感じさせる。
「どれもこれも、いいですね」
溜息を漏らした私に
「あれも……気に入ってくれるかの?」
主人は少女の小部屋の方向を親指で指差しながら、はにかんだように小声で聞いた。
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