お好きなように.6
「ええ……それはご心配なく、じゃないと思いますよ!」
ふたばが素っ頓狂な声を上げた。
「売上げもないのになぜ人がいるんですかぁ!?」
「それと……」
とひなこもそれに続いた。
「先程、業務内容の説明で仕入れ、とおっしゃいましたよね? こちらも担当するのでしょうか? そんな目利きなんてできません」
私は頼もしげに思わず左右の二人を改めて眺めた。この二人、できる。こんな部下なら私もほしい……いや、とりあえず私が店長なんでしたっけ。
「さ、そこです」
最所が言い難いことをはっきりいってしまおう、という表情をあからさまに作った。私たちの膝が自然に一段と前に出た。
「実はその仕入れが皆さんに一番お願いしたいことなのです。そして仕入れていただきたいものが……」
しばらくの間があった。
ふたばが小さくドスの利いた声でささやいた。
「もしかして兄さん……ヤク……ですかい?」
「ちょっと! ふたばちゃん少し黙ってて」
ひなこが渋い顔をした。
「いやいやいや、ふたばさん、あなた実に面白い」
最所は今やすっかりふたばファンになっており、
「そういう冗談嫌いじゃないですなぁ」
と、また脱線しそうになったところで京念が軽く咳払いをした。
「いや、失礼。そんな物騒な物ではありません。仕入れていただきたいのは……ですね」
だから早く続きを言え。そこで間を置くからあらぬ妄想が入るのだ――。そんな言葉が思わず口から出そうになったのを必死で抑えながら次の言葉を待った。
「仕入れていただきたいのは、思い出なのです」
私たちは思わず口がポカーンと開いていたと思う。
そこからふたばと最所が脱線しないように細心の注意を払いながら聞き出した話というものは大体このようなものだった。
この店の主である逢摩 堂一氏は、元々この辺一帯の大地主であり、ここに来る前に通ったマンションのオーナーも逢摩氏らしく、先祖代々土地の売買やらマンションの賃料やらなんやらで充分食べていけるという、悠々自適の生活を送っているらしい。
生まれてから一度もお金の苦労とは無縁ということだそうで、話を聞いている分には腹立たしいくらい経済に恵まれた人物であるらしい。
ただ残念なことに子どもはおらず、最所の調査によると親類縁者もほとんどと言っていい位いないらしい。逢摩氏が亡き後、資産は慈善団体に寄付することになってはいるらしいのだが、まあ生まれた時からの苦労知らずでとことんお人好しときている。
この店の在庫のほとんどは、そんな逢摩氏の性格を知っている――あるいは聞きつけた人々が持ち込むガラクタだそうだ。
「なにせ鑑定もしないまま向こうの言い値でお買い上げになられるので……」
税理士の京念が溜め息をついた。
「いえ、みんながみんなガラクタというわけではありません。中にはもちろん本物や値打ち物もあります。しかしそれらは全て、なんというか……例えて言うなら銀行やら商店街やらで正月に配る干支物の置物というかおもちゃがありますよね? その側に人間国宝が作った壺が並んだりしていて、いわゆる――」
「玉石混淆」
ふたばがさらりと言った。
「そう、それです。よくご存知ですねぇ」
ひなこがコホンと咳払いをした。注意報発令である。
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