お好きなように.5
話の後を継いだのは税理士だった。
「さて、次は給与についてご説明します。やや変則的といえばそうなのですが、そうですね……契約制と考えていただければわかりやすいでしょうか。毎月一日に前払いという形になります」
すなわち税理士の京念の話はこうだった。時給一〇〇〇円で一日の営業時間は八時間。週に六日営業するので八〇〇〇円×二六日で二十万八千円と交通費として別途一万二千円支給されるので合計二十二万円が支払われることになるらしい。
そして毎月一日にはこの二人が来店し、私たちの意思を確認したうえで支払いをする、ということだった。
「ちょっと待ってください!」
ひなこがそう言って座り直した。
「前払い、とおっしゃいましたが例えば頂いた後でやむを得ず休まなければならないときもありますよね」
そうですよ、と続けたのはふたばだ。
「いただいた次の日から『もう来ませ~ん』ってパターンもありますよね?」
二人の男はにやりと顔を見合わせた。
「あなた方三人は、そんなことを絶対できないタイプの方々です」
京念は微笑みを浮かべながら自信満々といった口調でそう言った。
「まあ、ひなこさんがご心配されたとおりやむを得ず……は確かにあるでしょう。そこは三人で相談なさってください。その分を返金されるもよし、後の二人にお礼として渡されてもよし。大人の対応でお好きなように」
「そして」
と、語り手は最所に移った。
「業務内容ですが、こちらはご覧のとおり古物と古書販売が中心です。その接客および仕入れ、そして店内美化……そうですねぇ……」
最所は改めて事務所らしきこの部屋を見渡した。
「まあ当分はこの美化に力を入れていただくのが無難でしょうな。お世辞にもきちんと片付いているとは言い難い」
最所の視線につられて私たちも改めて周りを見渡した。
やはり全く片付いてはいない――というか、いつ掃除したのかと疑いたくなる有様だった。
一つ一つの調度品は決して悪くない趣味なのだが、いかんせんその良さが判別できないくらい埃が積もっており、今はその埃をなるべく舞い上がらせないように誰にも動いてほしくない、とさえ思わせる状態なのだった。
「各々の価格は商品の裏に貼り付けてあるそうです。かなり良心的な値付けになっているそうですので、値引きはしないで欲しいと――ああ、それも逢摩氏からの依頼です。まあはっきり申し上げるとさほど繁忙店ではありませんので、業務自体は比較的高度な技術を必要とするものではありません」
続けて京念が言葉をつないだ。見事な連携プレーとはむしろこの二人だった。全く口をはさむ余裕がない。
「その日の売上げはみいこさん、帰宅途中で友引信用金庫の夜間金庫に入れておいてくだされば結構です。たしか……」
京念が私の履歴書を再度確認し、
「通勤にお使いになられるバス停のすぐそばに支店がありますね」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
ようやく口を挟むことができた。聞きたいことがありすぎる。
「はい、なんでしょう?」
「あの、夜間金庫に入れる、ということについてはやぶさかではありませんが……社長――というか逢摩さんはいらっしゃらないのですか? そんなお金を、大金をお預かりして、もし途中で何かあったときに責任を問われたりするのはちょっと……」
ああ、そのことか。と言わんばかりに京念は微笑んだ。
「大丈夫です。少なくとも私の知る限り売上げはここ数年ほとんどありませんから、ご心配なく」
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