お好きなように.7
「で……つまり私どもに何をしろと?」
私はにっこり笑った。
「そうそう、ですからね。何度も注意してもお聞きになられない。ガラクタだと言ってもそれは各々思い出が詰まっている品なのだ、と。まあそうおっしゃるわけです」
というわけで、逢摩氏はその品というより、それにまつわる思い出話を買い付けている状態で、それが結構な量になったらしい。
もちろん中にはとんでもない作り話やらかなりの眉唾物やらもあるのだが、氏に言わせるとそこにも人間ドラマがあるということで、それを一冊の本にまとめるのが残された人生の使命だと決心したらしいのだ。
しかしこの店にいる限りは余計な煩わしい業務やら人付き合いやらが絡んできてなかなか執筆活動に専念できない。
そこで――と最所が重々しく言った。
「信頼できる人材にこの店を任せて、思い出話の買い付けもお願いしたい。そしてその際の価格もその人たちに査定して欲しい……と、まあそういうことです。当座の金子はそこの、その金庫に入れておくと仰っておいででしたが……」
京念は例の荒縄に括られている鍵から一つを選び、部屋の隅に鎮座している古めかしい金庫を開けた。注視するのはいかがなものかと一瞬ためらった私だが、やはり好奇心には勝てず、思わず首を回して彼の動きを見守ってしまった。そしてそれはどうやら左右同様であるようだった。
しかし金庫の中は、京念が邪魔になって見ることができなかったので再びまっすぐ前を向き、左右も同様にそれに倣った。
「そうですねぇ……まあこれくらいあれば当座は間に合うでしょうよ。あ、これはなんだ? ふうん、これは皆さん宛ですねぇ」
ごそごそと金庫の中の物を探っている様子の京念は、
「ちょっと最所さん、いらしてください。あなたも立会人になっていただかないと」
と最所を促し、二人はそこで金額の確認をし合った様子だった。
それを終えたようで、こちらに戻ってきた二人は各々小さな桐箱を持っていた。最所は一つ、京念は二つである。
二人は改めてきちんと私たちの前に座った。
「大体説明は以上です。金庫内の金額は確認したところ一〇〇〇万円きっちりありました。これは毎月の月初めに使用した分を補充します。もちろんその際に明細も拝見することになりますが。また予備として一〇〇万円が別に入っています。これは雑費、厚生費と考えていただければ結構です。この分はレシートでも大丈夫。これも同様に使用した分を補充します。で……」
二人は再びまっすぐ背筋を伸ばした。
「明日はちょうど月初めです。ここで改めて意思確認をします。ひなこさん、ふたばさん、みいこさん、これから一か月間勤務されますか?」
京念は茶色のクラシカルな給料袋を各々の前に並べた。
「必殺仕置人の世界みたい……」
ぽそりと呟いたふたばの言葉に私は内心激しく同意した。
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