お好きなように.2

 ひなこは場持ちの良いタイプと見えて、語尾の上がる癖のある若い方の男としばしコーヒー談義を繰り広げていた。

 私より一回りぐらい年下なのだろうか。歯切れのよい話し方は言葉を使う仕事を経験してきたのだろうか。私はそんな二人に曖昧に微笑んだり相槌を打ちながら、今度は左隣に座っているふたばをさり気なく観察した。

 彼女は今のところコーヒーに手を付けていない。ひなこたちの会話に私同様頷きながら聞いてはいるものの、彼女の両手は膝の上で組まれており、はじめから飲む気は全く無いようだった。


「いただかないの? 冷めちゃうわよ」

 と小声でささやく私に

「私、コーヒーだめなんです。嫌いなんです」

 と彼女はあっけらかんとはっきり声に出し、私はまるで自分の部下が取引先でそう言いのけたかのように内心焦った。しかも丸々残ったコーヒーを見て、あの奥方はどう思うだろう。さぞかしがっかりするのではないだろうか……などと余計なことまで考えながら。


 思いがけず救いの手を差し伸べてくれたのは銀縁メガネで、

「召し上がらないんですか? では私、いただいてもいいですか?」

 と、声を掛けてくれた。

「はい! もうもう、それはもう喜んで!」

 思わずそう私が答えそうになり、慌てて口元を押さえた。ふたばは、と見ればお好きなんですかぁ? と笑いながらソーサーごと銀縁メガネのほうへ差し出している。

 私は苦笑しながらもそっと銀縁メガネに一礼すると、彼もまたちらりとそんな私に頷いた。

 どうも私たちは似た世代らしい。いわゆる周りに気を遣いまくってストレスを勝手に溜め込む世代。ふたばは……私よりかなり年下、たぶん二十代後半ぐらいだろう。きちんと自分の主義主張を発言できる世代。

 このジェネレーションギャップは日本海溝より深く、フォッサマグナよりズレているのだ。


 しかしごく自然だったとは言うものの、なぜ私が真ん中に座っているのだろう。この配置はどうしたものか。

 私たちは、いや、私はここに就職することになってしまうのだろうか。後の二人はどうするつもりなのか。

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