第4話 機密

よどんだ闇が泡立ち、渦巻いた。

 闇が目をひらき、一体の化け物が出現した。

『内閣霊査室』のプレートの掛かった扉の前だが、化け物の目には、おぼろとして見えない。結界にはばまれているからだ。





「ほほほ、瞳がたいへん失礼しました」

布袋様のような老人が茶をたてている。

「あなたが天禅老師ですか?」

 洋間に畳を敷いた一画が、茶室のように調度され、そこに細村や俊介は正座していた。

 細村の後頭部にはコブができている。


「高山天禅と申します」

「さっそくですが内閣霊査局とは、いかなる組織なのです?」

「ほんらいの仕事は占術によって、日本の進むべき道をしめすことです」

「ほう、占いで政治を動かせと……!」


 細村のこめかみに癇筋が浮いた。


「ただのアドバイス、助言みたいなもんさ」

 俊介は行儀悪く箸で茶菓子を口にほりこむ。

「さきのことがわかれば、だれも苦労はしないよ」


(俊介、行儀がわるいわよ!)

 隣の瞳がにらみつける。

「ほかにも霊障をとりのぞいたり、霊的な攻撃から日本を防衛したりしております」

「やれやれ、この科学万能の時代に……」

呆れたように首をふる細村だった。


「歴代首相はみな、よほど迷信深かったようですな」

 細村は目の前の茶碗を裏返して、中身をこぼした。

「それとも薬物でも飲ませたのですか」

「むかーっ」

「俊介、あとでお掃除よろしく」

 眼尻をつり上げた俊介をからかう瞳。


「使途不明な内閣官房機密費が十数億円があると聞いているが、なるほどみごとな碗だ」

 茶碗を拝見する細村。

「さぞかし高価なものでしょうな」

「ほっほっ、それはわしが焼いた物です」

 細村の皮肉に切り返す天禅。

「よろしければ差しあげますよ」


「ぐっ……と、とにかく!」

 傲然と席を立つ細村。

「ここは税金のムダづかいだ!公表し調査委員会にかけるから、そのつもりでいなさい」

「俊介」

 天禅は動ずることなく笑みを浮かべていた。

「総理をお送りしなさい」

「えーっ、おれが?」

「内霊を理解していただく、よい機会です」

 天禅の眼差しがきびしいものになった。


「!」

俊介も険しい表情となった。

「どうしたの?」

 瞳が緊張してきいた。

「足がしびれた」

 ずっこける俊介だった。





左鏡の道場。

面をつけた女性と、左鏡が護摩壇をはさんで向かい合っている。左鏡の両眼は、炎にらんらんと輝いている。

「ううむ、細村の気配はするのだが、つかまらん……結界がはられているのか?」

結跏趺坐した左鏡がつぶやく。

緊張してじっと見守る幹事長。


「むっ?」

 左鏡がなにか見つけた。


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