第3話 左鏡

 旧家である。

 縁側に面した部屋の、障子に二人の男の影が映っていた。


「真民党は細村人気だけでなりたっているようなもの。やつさえ死ねば……」

ひどく脂ぎった髪の薄い壮年だ。

「政権をとりかえして、こんどはあなたが総理ですか……幹事長どの」

 怪しげな祭壇の前に座す長髪の若者。

 サングラスをかけている。

「しかし選挙は終わったばかり。次の選挙まで何年もありますよ」

「だからよいのだ。ぎりぎりのタイミングでは同情票が恐ろしい」

「なるほど」

「左鏡よ、こんどは宮田のときのように、しくじるでないぞ」

「宮田にあのような護衛がついていたとは、誤算でした」

「汚職の証人を消すようなぐあいにはいかぬさ」

「失礼します」


和服姿の若い女性が襖をあけた。

「左鏡さま、お呼びでしょうか」

「こんどはお前にはたらいてもらおう」

サングラスをはずす左鏡。

 鋭い眼光に女性は固まってしまう。

「これをつけなさい」

 左鏡は般若の面を祭壇からとりあげた。

「はい」

 無表情に女性は受け取った。

「この女はする霊媒体質でして……くくく」

 幹事長に告げる左鏡。



ショーツと太ももが視界にとびこんだ。

「え?」

  視線が釘付けになっている細村総理。

 ミニスカートの少女がテーブルを拭いている、その後ろ姿だった。

「きゃーっ!」


「どうしたの、瞳ちゃん」

タイトなツーピースの美女が、奥の部屋から飛び出してきた。

「あ、お姉さん」

 瞳は細村を指さして、

「変なおじさんが、わたしに襲いかかろうとしたのっ」

「ち、ちがう、わたしは……!」

 動転し、真っ赤になって後退する細村。

「ごめん、ごめん、みんな待ったー」

「ごわっ!?」

細村の入ってきたドアから、俊介が飛び込み、細村は吹っ飛ばされる。


「なにしてたの?きょうは俊介の掃除当番でしょ!」

 瞳が手の布巾を見せつける。

(ここは内閣霊査局のはずじゃ……?)

 狐につままれたような細村の表情。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る