under heaven
砂嵐
chapter1:一自殺者のcoup d'etat
無機質で冷たい都市に
今日もまた、朝日が昇った。
人類の繁栄を誇示するかのようにひしめき立つビルの群れ
衰えることを知らないように荘厳にそびえ立つ摩天楼の一角のビルの屋上に、1人の少年の姿があった。
地上350m。
ビル風を顔面にうけながら、少年はポケットの中から折り畳まれた紙片を取り出した。
「 お父さんお母さんごめんなさい。」
(テンプレな書き出し)
「今迄、幸せな日々を送れたのは、貴方方のお陰でした。」
(息の詰まるような辛い日々だった)
「僕は本当に幸せな人間だと思います。」
(幸せって何だったっけ)
「きっと僕が死んだら貴方方を悲しませてしまうことでしょう。」
(どうせ僕の存在価値は実験用のモルモット以下なんだ)
「親不孝者な僕をお許しください。」
(恨まれた方がどんなに嬉しいか)
そして、最後の一文を読むや否や、少年は紙切れをビリビリに裂いて、思いきり投げ捨てた。紙片は風に乗ってひらひらと宙を舞い、眼下に落ちることなく、少年の周りに散らばった。
「お父さんお母さん、愛しています。」
心無い言葉を平然と言える人間になってしまった。こんなこと1度も思ったことがないのに。
生まれた時から、自分を偽って、いい子の顔をして、両親の望む通りに生きてきた。
ただ認められたくて、誉められたくて、仮染めでもいいから愛情がほしかった。
僕がたった一つ得られたものは、もう剥がすことの出来なくなった仮面。
どんなに剥がそうとしてもとれなくて、もう笑い方も忘れてしまった。
だから僕は最後までこの仮面を貫き通すことにした。
大切な人を裏切って、見殺しにしてまで。
今度こそ褒めてくれますか?
笑いかけてくれますか?
期待は水風船のように膨らんで弾けた。
虚無感と、喪失感が同時にあふれでた。
両親は普段と変わらず、僕がいないかのように振舞った。
その時僕は決意した。
すべてを犠牲にしてまで守り抜いたこの愛おしい薄っぺらい仮面を身に付けたまま、
「三文芝居はお終いにしよう。」
そう呟くと、少年はニヤリと笑って、底の見えない街の中に身を投げた。
屋上には散らばった紙片が風に流されるだけだった。
under heaven 砂嵐 @sunaarashi
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