異世界に転生させたはいいものの、チート山盛りにし過ぎて後悔してます。
@zatto-konnamon
短編
私は転生受付の女神、レーニア・シュミルト
転生受付とはどういう仕事かというと、前世で悔いを残したまま死んだ人間を異世界に転生させる仕事だ。
まぁ読んで字のごとくってところかな。
今、私には悩みがある。それは……
「デュフ……デュフフフ、まるでフィギュアが人間になったみたいでござるな!」
キモイ
「ベイビー、可愛い子猫ちゃん。ここはどこなんだい?」
花○くんかよ
「誰だ?このBBA。」
コイツはモンスターが超強力な世界に転生させるわ!
変なのしか来ない……
おっかしいなぁ、ちょっと前までは普通の見た目・性格の人も来てたんだけど……
ヤバいわね、このままじゃ家賃が払えなくなるわ。
しかも今月はミッシェルの限定バッグをクレジットで買っちゃったから、いつもよりキツい!
※転生受付の仕事は死んだ人を異世界に送り込み、その人が残した功績で給料が決まるのだ!
ちゃっちゃと才能ある奴が来てくれないかな~。
「あの~すみません。」
そうしたらチートな能力とか道具を山盛りにしてあげるのに。
「もしもし?」
そんで最凶最悪の魔王がいる世界に送り込んで、倒させるのに!
「聞いてますか?」
「なによ、うっさいわね!…………よっしゃ来たぁ!!!!」
相手がビビっているが構わず続ける。
「コホン、え~あなたは現世で死んでしまいました。でも、このままでは不憫なので異世界に転生して差し上げます。」
「え? いきなり何を……」
「ついでに強い能力と道具を与えるので魔王を倒してきてください。」
「そんな事言われても、細かい話も聞いてないし……」
コイツを逃がすと次はいつマトモなのが来るか分からない!
顔はまぁ上の下、性格も普通より穏やかっぽいし、押し切るには丁度いい!
「あなたには悔いがあるのでしょう? 人生をやり直して、悔いを無くしたいとは思いませんか?こんなチャンス二度とありませんよ?」
「……そうですね。」
押し切ったぁ!
よし、考え直す前に転生させちゃおう!
「じゃあ能力付加、道具はこれね。行ってらっしゃーい!」
転生準備が終わった、あと10秒!
「僕、大人し過ぎるって皆にからかわれてたんです。」
あらやだ、自分語りが始まったわ。でも気分がいいから聞いてあげる。
「だから皆に馬鹿にされないよう、一度でいいから魔王とかになってみたかったんです。ありがとうございました!」
「え? ちょま」シュン!
【転生が完了しました】
「やっべ……」
最後のセリフが凄い気になるんだけど。魔王になりたかった?
もしかして私、とんでもない事しちゃった?
「……知~らない。」
酒飲んで忘れよう。
数ヶ月後
今日は楽しみにしてた日。
なんせミカエル様に呼び出されちゃった!
ミカエル様と言えば最上位の天使で有名ブランド、ミッシェルの創始者!顔、金、権力、すべてが揃った偉大なる方。
そんな方に呼び出されたという事は……
「レーニア、君は美しい。一目見ただけで虜になってしまったよ。」
「そんな……当然です。」
「もう我慢できないんだ。いいよね?」
「ま、まだ外も明るい時間からこんな事……」
「じゃあ、暗くなったらいいのかい?」
「もう……イ・ジ・ワ・ル」
とか、なんとかなっちゃったりしてキャー!!
妄想を膨らませている内にミカエル様の執務室に来てしまった。はやる心を抑えてドアをノックする。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
部屋に入るとミカエル様が一人、ソファーに腰掛けていた。
「何か御用でしょうか?」
「少し聞きたい事があってね。」
聞きたい事?
「異世界トゥバティリを知っているかい?」
「えぇまあ。」
トゥバティリは私も何人か転生者を送った覚えがある。
「今、そこが大変な事態に陥っていてね。」
「と、申しますと?」
「どこかの転生受付が、ある人物に馬鹿みたいなとんでも能力と道具を
大量に渡して転生させたせいで、その世界の魔王や勇者は殺される、他の転生者でも勝てない、挙げ句に別の異世界を渡り歩き、世界征服していってるという話があるんだが、心当たりは?」
「あっちゃ~いっけねぇ、トホホ。私とした事が、今日は父のいとこの娘の友達のはとこが命日なの忘れてました。行ってきまーす。」
「逃げたらお尋ね者だからね?」
「すみませんでしたぁ!」
我ながら綺麗な土下座を決めたと思う。
「なってしまったのはしょうがない。どうにかして来てね。」
「……私が?」
「君が。」
「……どうやって?」
「さぁ?」
ミカエル様の足にしがみつく。
「無理無理無理無理、無理ですって! か弱い受付ですよ!? 他の人が勝てないのに出来るわけないじゃないですか!!」
「自業自得だしね。」
「鬼! 悪魔!!」
「天使だよ。」
そうして私はトゥバティリに単身乗り込むことになった。
さらに数ヶ月後
「だらっしゃあ!」
ドゴォン!
「ギャア!」「ヒィ!」
自分にもチートスキルや道具を満載にした上でトゥバティリに乗り込んだものの、今まで戦闘などした事がなく、最初はどうすればいいか分からなかった。
でも今では立派にモンスターを狩れる日々。
「オークって豚よね? 焼いたら美味しいかしら?」
「ブヒィ!? ブヒブヒブヒ!」
たくましくなり過ぎた気もするけど、そんなの気にしない。
よし、これですべての元凶を倒せる! 意気込んで、あいつの後を追った。
「あ、お久しぶりです。」
「あ、お久しぶりです。じゃないわよ! あんた、何て事してくれてんのよ!!」
「何がです?」
「魔王を倒すだけで良かったのに、あんたが魔王になったら意味ないでしょ!」
「でも、僕は魔王になりたかったんですし、僕の話は聞いてくれなかったじゃないですか。」
「ぐっ……問答無用ォ!!」
私は聖剣で斬りかかる! が……
「ダメですよ、振りかぶったら避けやすくなります。」
「ウソッ!?……でぇい!」
「魔法も発動タイミングが分かったら意味ないじゃないですか。」
攻撃を全部避ける……え~と、名前……いいや、上の下で!
上の下は私よりも数ヶ月ほど早く転生しただけなのに私より断然強くなってる。スキルや道具にそこまで差は無いはずなのに……
もしかしたら本当に素質があったのかもしれない。
それから何百、何千と攻撃するが、避けるだけ。
受け止める事も、反撃する事するしないなんて舐められてるにもほどがある。
「もうやめませんか?僕としては、異世界に転生してくれた恩もありますし、倒したくはないんです。」
「魔王のくせに何言ってんのよ! それにあんたを倒さないと私の生活が終わるのよ、いろんな意味で!!」
上の下は諦めたように、
「そうですか、仕方ありませんね。では死んでください。」
そう言うと、魔法を放ってきた。
「あがっ……!」
たった一発の魔法で瀕死にさせられる私。周りの地形も変わり、地面がえぐれている。
「何だ、もう終わりですか?あっけないですね。」
「げほっ……」
「今、止めを刺してあげますよ。この世界ごとね。」
上の下が、手を空に掲げて魔力を溜める。
異常な熱量を持った光の玉が構成され、どんどんと大きくなっていく。そして冷たい目で私を見下ろし、呟いた。
「さようなら。」
「ヒッ!」
その時、
「カタギの人間に手ェ出してんじゃねぇよ!!」
その言葉とともに、空に数え切れないほどの魔方陣が現れドラゴンが出てきた。その中で最も一番大きいドラゴンから声が聞こえる。
「ぶっ放せや!」
「了解した、わが主。」
ドラゴンの口から一本の極太い線に圧縮された炎が吐き出される。
「ふん、こんなもの……」
パキィィィン!
「何!?」
炎は上の下の防御スキルを破り、当たる寸前までいったが、
「くそが!」
ドオォォォォォン!!
手に溜めた魔力の玉を犠牲にする事で、回避していた。その後、ドラゴンが一斉に襲い掛かって自分を守る事に精一杯みたいだ。
呆然としている私に男が近寄って声を掛けてきた。
「よう、大丈夫……って、お前はいつかのBBAじゃねぇか。」
こいつは!?
「なんで、あんたがここにいるのよ!?」
「なんでって、強いやつと戦いに?」
何、この戦闘狂!? 確か、こいつのスキルは……
「何でも覚えられんのか?だったら族やってた頃みたく、タイマンして勝ったら相手チームを傘下に入れるみたいなので夜露死苦!」
言ってる事がよく分からないわ。
とりあえずこれでいいかしらね。
【相手と一対一で戦って勝利した場合、相手の能力を受け継ぎ、同じ種族の中で戦った相手より弱いものを自分の配下にする事ができる。】
よく、こんな都合のいいスキルがあったわね。
だったはずよね。
じゃあこの男、ドラゴンと一対一で戦ったの? 馬鹿じゃないの!?
「あんたのおかげで中々楽しい人生を送ってるぜ。」
「そう……良かったわね。」
私は全然楽しくないけどね。
私たちが喋っていると、
「ふ、ふざけるなぁ! この僕がやられてたまるか!」
上の下が叫んだ。
「あれは……チッ、不味いな!」
「どうしたのよ。」
「自分の魔力を暴発させようとしてやがる! 異世界ごと自爆する気か!」
「えぇ!?」
「ははっ! 僕は死なないよ。ちょっとでも魔力が残っていれば、復活するからねぇ!」
「クソがぁ!」
上の下の体が光り始める!
「その攻撃、美しくないね!」
「な!……体が、動かない! 魔力も溜まらない!!」
「美しくない攻撃なんて許せないからね。止めさせてもらったよ。」
花○くん!?
「なんで?」
「おや? 可愛い子猫ちゃん、また会ったね。」
「んだ? このナルシスト。」
「……君もあまり美しくないね。」
「ケンカ売ってんのか、アァ!?」
私は必死で二人を止める。
「ちょ、ちょっと待って! お願いだから!! 今はあいつを何とかしなきゃ!!」
「チッ……」
「子猫ちゃんの頼みならしょうがないね。」
こいつに付与したスキルは……
「そうだね。ん~……では美しくないものに懺悔する時間を与えるスキルとかあるかい?」
「……どういう事でしょう?」
「つまり、汚い行いをするヤツに自分がどういう事をやっているのか認識させ、それを悔いる時間を与えるようなスキルといえば分かるかな?」
いえ、全然分からないわ……
【自分が美しくないと思ったものの動きを止める。】
時間ないし、意味不明だからこれでいっか。
あれ、役立ったんだ……
「グギィァァァァ! ちくしょう! 動かない!」
「当たり前だよ。僕のスキルはそう簡単に破れない。」
「でもどうするよ。下手に攻撃したら暴発しちまうぜ? 今の状態でも、下手すりゃ星一つは消えそうだが……」
「ならば拙者にお任せを!!」
キモイのまで来た。
「デュフフフフ、また会ったでござるな天使殿!」
「そ、そうね……」
「なんだありゃ?」
「美しくない……」
「お兄ちゃん! 浮気はダメだよ?」
「おっと、ゴメンでござる!」
誰? ちっちゃい猫耳の獣人? お兄ちゃんはともかくとして浮気?
「ええぇぇぇぇぇ!? 惚れられてんの!?」
「デュフフ、そうなのでござる。拙者が行った異世界では美的感覚が逆でござってな、自分で言うのもアレであるが世界一のイケメン扱いで困っているでござる。」
ニタニタ笑いながら言われても説得力がない。
「マジかよ……」
「人によって美しさの基準は違うからね……」
「でも犯罪でしょ……」
「私達のところは十歳で結婚出来るよ?」
「デュフフフフフフフ!」
いや、見た目が立派な犯罪だわ。
まぁキモイのはともかく異世界を渡ってきたって事は、実力はあるみたいね。スキルは……
「拙者は萌え足りないんだな。もっと萌えて萌えて萌えまくりたいんだな。」
……キモイ
【萌えれば萌えるほど強くなる。】
これでいいわよね。
だったかしら。
「んで、どうしようって言うんだよ?」
「こうするでござる。」
そう言って獣人の子に目配せする。
すると、獣人の子がキモイやつの方をあざといポーズを取って一言、
「にゃあん」
なんだコレ?
「も……」
「「「も?」」」
「萌えぇぇぇぇぇ!!!!」
キモイのが目にも留まらぬ速さで上の下にタックルをかまして、そのまま上空へ……
あ、何か光った。
しばらくするとキモイのが戻ってきて、
「爆発する前に、宇宙に放り投げて来たでござる。」
規格外すぎる……
「終わりでいいのか?」
「やはり、美しいものは勝利する宿命なのだね。」
「デュフ、これで好きなだけイチャイチャ出来るでござるよ?」
……まぁいいわ。
終わり良ければ、すべて良し。よね?
とりあえずミカエル様に連絡を取る。
トゥルルル、ガチャ
「ミカエル様、魔王になった転生者を倒してきました!」
「よくやってくれたね。」
「頑張りましたわ。でもこれでやっと天界に戻って……」
「無理なんだよね。」
「……え?」
何か今、意味が分からない言葉が聞こえたような?
「今、なんて?」
「君はこっちに戻ってこれないんだ。」
「ええぇぇぇぇぇ!? なんで、どうして!?」
「正確には居場所がないんだ。」
居場所がない!?
「ちゃんと説明してください!!」
「まず、君がいなくなって数ヶ月。その間、家賃滞納してるよね?」
「異世界にいるのに払える訳ないじゃないですか!」
「じゃあ先渡ししておけば良かっただけの話だよね?」
「ぐぐぐ……!」
「次に、君が買ってくれたミッシェルのバッグ。私のブランドの愛好家みたいだね、ありがとう。でもお金が支払われてないんだよ。」
「そんな! 給料からクレカに振り込まれるようになってるはずです!」
「でも君、最近は人を転生させてないじゃないか。」
「うぎぎぎぎ……!」
「そんな訳でね、商品のキャンセル料と家賃滞納分で家の荷物は差し押さえ。信用の問題で転生受付も今月付けでクビ。」
「くおぉぉぉ……!」
「まぁその異世界も征服される前に魔王を倒したから平和だし、住むには問題ないんじゃないかな? 住めば都って言うしね。」
「……」
「では君も第二の楽しい人生を歩みたまえ。では。」
ガチャ、ツーツー
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うお!びっくりした!」
「落ち着きたまえよ。」
「うっさいわね!」
あんのクソ天使! ちょっと顔が良くて、金を持ってて、権力があるからって!!
「あんた達! 私を手伝いなさい!」
「どうすんだよ?」
「天界に乗り込んでミカエルを最上位の天使の座から追い落とすのよ!」
「俺は強いヤツと闘えりゃ文句はねえが……」
「決まりね! あんたはどうなの!」
「う、うむ。部下に尻拭いさせるだけとか監督責任逃れをするのは、確かに美しくないがね……しかし」
「じゃあ、もう決定でいいじゃない! 最後!」
「拙者はイチャイチャしていたいので……」
最後に白ける事を言いやがった。
しょうがないので小声で耳打ちする。
「私なら、その子の成長……止められるわよ?」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、全身が震えだした。
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 行こうではないか皆の者!! 非道なる行いをする者に正義の鉄槌を!!」
「なんでテメェが仕切るんだよ。」
「こ、これは美しい行為なのだろうか?」
そうして私は三人+αを引き連れて天界に乗り込むことにした。
「待ってろやボケェ! 今に私を天界から追い出した事、後悔させてやるからなァ!!」
異世界に人を転生させる時は十分に注意しましょうね。
異世界に転生させたはいいものの、チート山盛りにし過ぎて後悔してます。 @zatto-konnamon
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