第35話 天使と悪魔と銭狂い⑤
一方その頃、右ルートを進むヒロキとユウキは。
「ひゃあっ!」
「何もねえだろ、ドア開けるたびにいちいち騒ぐなよ」
ヒロキはどっと疲れた顔で背後のユウキに言った。
「だってぇ」
既に半泣き状態のユウキにヒロキは嘆息した。
(やりづれえ……)
右の扉を開けると、細長い廊下に出た。右側にはいくつかの小部屋が並んでおり、廊下の先は直角に折れ曲がっている。
トイレや浴室といった途中の小部屋を一つ一つ調べて回るが、特に変わった点はなかった。
しかし、問題は別な所にあった。小部屋のドアを開けるたびにユウキがキャーキャーと喚くのだ。
(そんなに怖いなら何でわざわざこんなとこまで来るんだ?)
今もユウキはヒロキの服の裾を掴んで、背後霊のようにぴったりとついている。
ヒロキとしてはさっさと先に進みたいのだが、置いていったら後ろから首を絞められかねないので歩調を緩めざるを得ないのだ。
そんな調子で小部屋を全て調べ終え、廊下の角を曲がると両開きの豪華な扉があった。
扉を押し開いて、応接間と思しき部屋に足を踏み入れたその時。
「え? な、なになに!?」
ヒロキの後ろにいたユウキの身体がふわりと空中に浮かぶと、まるで磁石のように部屋の中央に引き寄せられた。
「姉ちゃん!?」
ヒロキはすぐさま駆け出そうとしたが、何か見えない壁にぶつかったように行く手を阻まれてしまった。
「おやおや、こんな所にお客人とは珍しいのう」
しわがれた奇怪な声と共に、部屋の奥からすっと人影が現れた。
「誰だ!?」
ヒロキはその人影――ボロボロのジャージ姿の老人を睨みつけた。
「わしは人呼んでマスターおじい。まさかこんな可愛いお嬢さんがやってくるとはのう。久しぶりに楽しめそうじゃわい」
「え? え!?」
ユウキはまだ困惑した様子で目をパチクリとさせている。
「さあ、お嬢ちゃん。わしと一緒に色んなことをして遊ぼう」
「あ、遊ぶ!? 何を!?」
「きまっとろうが。まずはお互いの恥部を見せあって――」
「ただの変態じゃねえかッ!」
ヒロキはボールペン――もとい、神剣クーゲルシュライバーを握り締め、がむしゃらに見えない壁に叩きつける。すると、空間に亀裂が入り、何かが崩れ去る音がした。
「ほう、それを破るか。中々やるのう。じゃが……
「なっ!? 体が、動かねえ!」
マスターおじいが気合を発すると、金縛りにでもあったかのようにヒロキの身体は動かなくなってしまった。
「ほっほっほ、しばらくそうしておれ」
「くそっ! 姉ちゃん、逃げろ!」
「だ、だめ! 動けない!」
ユウキは宙に浮いたまま必死に抵抗を試みるが、首を激しく左右に振る以外はヒロキ同様にどこも動かせない。
「では、まずはわしのせがれをじっくりと見てもらおうかの」
マスターおじいはにたり、とシワだらけの頬に更にシワを増やしてユウキににじり寄る。
「いやぁぁぁぁぁーーーー!!」
ユウキの悲鳴が室内に
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