第21話 熊虎激突! 鉄の女神杯(アイアンヴィーナス・カップ)③
放課後、
昼休みにはここで昼食を食べる生徒も多く見られるのだが、今は
そんな中庭にタダクニは足を踏み入れ、周囲に人の気配がない事を確認すると、中央にいくつかある背中合わせのベンチの一つに腰を下ろした。
「
不意に向かい側のベンチに座りスポーツ新聞を広げていた虎雷の男子生徒が声を投げてきた。
「たりめえだ。それで、例の
「慌てるな、ちゃんと用意してある。それよりそっちの
「おっと、そうだったな。尻を見てみな」
虎雷男子は新聞を閉じ、タダクニの言葉に従いベンチの裏を片手で探ると、封筒がテープで貼り付けてあるのを発見する。
「ふん、さすがに手際がいいな」
「けど本当にそれでいいのか?」
「ああ、バッチリだ」
虎雷男子は封筒の中身を確認しながら頬を緩ませる。彼の手には数枚の写真が握られており、そこには私服姿のガチホモが写っていた。
(どうやら新しいルートを開拓できそうだな)
「さて、と。それじゃ俺はそろそろ帰るとするかな」
名残惜しそうに写真を懐にしまいこむと、虎雷男子はベンチから立ってわざとらしく大きな伸びをする。そして折りたたんだ新聞をベンチに置いたまま静かに中庭を去っていった。
タダクニは虎雷男子の後ろ姿を見送ると、彼がベンチに残した新聞を拾い上げ、中に挟まれた茶色い角2封筒を取り出した。
互いに背中を向けたまま目も合わせず、淡々と必要事項のみを交換する。まるでスパイのようなやり取りだが、それには理由がある。
三大抗争などの勝負事の時期になると両校の生徒達の間にピリピリとした空気が流れ、下手に隣校の生徒と接触している所を見られれば裏切り者として糾弾される事もあるのだ。
「こいつは……」
茶封筒の中に入っていた書類と一枚の写真を見てタダクニは思わず目を見開いた。
「虎雷の女神……こりゃ手強いなんてもんじゃねえぞ」
タダクニが受け取った封筒の中には虎雷の女神の顔写真やプロフィールなどのデータが入っていた。
(もしここに書かれている情報が真実なら、今のままじゃ恐らくサヤカは勝てねえ)
更に書類にはもう一つ意外な情報が記されていたが、タダクニはその事は特に気にはならなかった。
(しょうがねえ、ダメ元であいつに頼んでみるか……)
取引相手が去ってから数分が経った後、タダクニも次なる手を打つべく中庭を後にした。
同時刻、放課後の第二グラウンドに二人のブルマ姿の少女がいた。
熊風と虎雷には敷地内の第一グラウンドの他に、少し離れた場所にもう一つグラウンドがある。二つの学校にグラウンドが一つでは体育や部活などで色々と不便だからだ。
とはいえ、合同で練習を行う運動部も多いので、体育以外では土日の部活練習ぐらいにしか使われておらず、今は彼女達以外に人影はない。
「それでは特訓を始めるわよ、サヤカ。準備はよくて?」
「は、はい! よろしくお願いします。
「よろしい。まずは筋力トレーニングから行くわよ。あなた体重はいかほど?」
「え? なんでそんなことを聞くんですか?」
「
「えーと……リンゴ三個分?」
頬に指をあてて可愛らしく小首を傾げるサヤカ。
彼女のファンやストーカーならば発狂ものの仕草であっただろうが、オウカの眉はピクリとも動かずに冷え冷えとした視線をぶつけてくる。
「なめんてんじゃないわよ」
「ご、ごめんなさい!」
周囲に二人の会話を聞いてる者はいないのだが、やはり恥ずかしいのだろうか。サヤカはオウカにひそひそと耳打ちする。
恥ずかしいといえば二人が穿いているブルマもそうなのだが、これはれっきとした学校指定の体操着である。
今時風俗か企画モノのコスプレぐらいでしかお目にかかれない
ブルマ根絶の機運が高まり、次々と学校指定の体操着がハーフパンツへと移り行く風潮の中、これに断固として異を唱えたのが当時の熊風、虎雷両校であった。
なにかと喧嘩の絶えない両校だが、この時ばかりはがっちりタッグを組み、
『歴史と伝統を重んじる校風として、偉大な先人達が生み出した血と汗と涙の結晶を容易く捨てるわけにはいかない。ブルマ保護すべし!』
と熱く訴え、圧倒的支持(ほぼ男性)を得て今日までブルマ存続に至っている。
と言えば聞こえはいいが、要はスケベおやじどもが屁理屈をこねただけの話である。
「……では中量級筋力訓練第三系『絶望を経た鬼神の破滅と覚醒』から始めましょうか」
「なんですかその物騒な単語のオンパレードは!?」
「なにって、言葉通りの特訓だけれど」
「他にはないんですか!? できればもっとソフトな感じのは!」
「そうねえ。あとは『埋没した
(まともそうなのが一つもない……)
「いいこと、サヤカ。今年の
「? 今度の虎雷の女神とはお知り合いなんですか?」
「ええ。本来なら私が出るべきなんでしょうけど、女神になれるのは一回のみと決まっているのよ。まあ、他にも理由はあるのだけれど」
そう言ったオウカの瞳はどこか哀愁と空虚を帯びていた。
「確かに特訓はどれも厳しいものばかりよ。けれど、
「は、はい……」
オウカの熱意と場の空気からそう答えざるをえなかったが、今のサヤカの頭の中には不安どころか果たして無事生きて帰ることができるのだろうかという思いしかなかった。
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