第12話 さわやか草野球デスマッチ! 血戦編②
「プレイボール!」
時刻は午前九時きっかり。審判が試合開始を告げる。
本試合のカス中と
カス中
1 森川 (左)
2 烏丸 (二)
3 有馬ヒ(三)
4 本望 (中)
5 有馬タ(一)
6 竜胆 (右)
7 坂本 (遊)
8 山田 (捕)
9 雲母 (投)
怒外道
1
2
3
4 ボボ (中) でかい黒人。過去全ての打席でホームランの超強打者。
5
6
7
8
9
ちなみに怒外道のオーダーにはマネージャーの
一回表。怒外道の先攻から始まり、トップバッターは一番サード、モヒカンで頭悪そうな
対するカス中のピッチャーは
ざっとマウンドを足でならし、ミットを構えている山田とサインを交換する。
大きく振りかぶって投げた初球の直後だった。
「!」
ボールに目もくれずに、いきなり鬼築は雲母目掛けてバットを投げ飛ばして来た。
「くっ!」
眼前に飛んで来た金属バットを雲母は
「へへへへ、すまねえ。つい緊張してバットが滑っちまってな」
へらへらと軽薄な笑みを浮かべながら鬼築は地面に転がったバットを拾いに行く。
挨拶代わりの先制攻撃ということだろう。しかし、雲母の顔にはあまり驚きの色は見られなかった。
「な、言ったとおりだろ。連中の手口は読めてる」
「さすがだな。だがどうしてわかったんだ?」
「そりゃ俺だって連中の立場だったらそうするからな。出鼻から反則仕掛けて敵の戦意を喪失させるのは戦いの基本中の基本だ」
「有馬……君って奴は……」
波乱の幕開けとはなったが、その後、雲母は鬼築をあっさりと空振り三振に仕留めた。
「へへ、簡単には潰さねえよ。お楽しみは最後までとっとかねえとな」
負け惜しみとは思えない不気味な台詞を言い残し、鬼築はバッターボックスを去る。
怒外道の続くバッターは二番ショート、眉なし鼻ピアスでクスリやってそうな
やや高めに浮いたストレートを打ち下ろすようなバッティングで、打球は雲母の前で大きくバウンドする。雲母は飛び上がってグラブを突き出すも、わずかにボールには届かなかった。
「くっ、取れない!」
「僕に任せろ!」
雲母の頭上を超えたボールをセカンドのシュウジがジャンピングキャッチし、そのまま流れるように空中でファーストのタダクニに送球する。
「アウト!」
外藤の足よりわずかに早くボールがタダクニに届き、塁審がアウトを告げる。
「ナイスプレー!」
「いいぞ、烏丸!」
ナインが次々と声をかけ、シュウジは少し照れくさそうにはにかんで応えた。
二死ランナーなしで三番レフト、中学生どころか堅気にも見えない
「秘打、一刀両断!」
仕込みバットだった。
木の鞘から姿を現した銀色に煌めく刃がボールを真っ二つにする。
「ボールを切っただと!?」
「あれ何の意味があるんだ?」
驚くシュウジに対し、タダクニは冷静に突っ込みを入れる。
二つに分かれたボールの内、片方は運良くピッチャー真正面のライナーとなったが、もう片方は転々と内野を転がっていく。
「ちっ!」
サードのヒロキが突っ込んで半分に割れたボールを掴むと、そのまま見事にまっすぐファーストに送球。
「よし!」
タダクニはそれをがっちり捕球する。アウトだ。
しかし、獄道はアウトになったにも関わらず、更に加速して足から一塁に滑り込もうとする。否、それはタダクニの足を狙ってのものだった。
「有馬さん、危ない!」
雲母が鋭く叫ぶも、既にスパイクの刃を立てた殺人スライディングがタダクニの足を目掛けて襲い掛かる。
「死ねやーッ!」
対して、タダクニは腰を落とし、どっしりと待ち構えていた。
「どすこい!」
ガキンと金属同士がぶつかり合う鈍い音がし、悲鳴が上がる。
「いってええええ!」
悲鳴の主は、獄道だった。苦悶の表情で足首を押さえて転げ回っている。
「残念だったな。こんなこともあろうかと、
勝ち誇るように獄道を見下ろしながら、タダクニは一塁ベンチへと戻って行った。
三者凡退。〇対〇。
「ちっ、獄道の奴、ドジ踏みやがって。まあいい、お楽しみはこれからだ」
怒外道のピッチャー、
一回裏。カス中のトップバッターは一番レフト、マサヒコ。
対して怒外道のピッチャーは眼帯のエース、
「まずは軽く挨拶代わりだ。ほーらよっ!」
完璧になめきっているのか、初球は小学生でももう少し速く投げれるくらいの完全な棒球だった。
「ふんっ!」
が、力一杯振ったマサヒコのバットは完全にタイミングを外されて空振り。
「おい、マサヒコ! あんなクソボール空振りすんじゃねえよ!」
「うるせえ! 力んだだけだ!」
(とは言っても、ありゃあからさまに怪しいな)
野次ってはみたものの、タダクニは嫌な予感がプンプンしていた。
「中坊がなめやがって! おい、もう一球同じ球投げる度胸あんのかコラぁ!」
「へへへ。じゃあ、お望み通りにサービスしてやるよ」
余裕と言わんばかりににやついた顔で、外下々野はさっきと同じく棒球を放る。
(バカめ! このマサヒコ様を甘く見すぎたようだな)
大して速くもないスイングだったが、マサヒコのバットがスローボールの
「俺のバットが火を噴くぜ!」
が、ジャストミートした次の瞬間。
BOOOOOM!!
「グアアア――ッ!!!!」
凄まじい爆発音と叫び声と共に、マサヒコの体はまるで紙切れのように軽々と上空に舞った。
『マ、マサヒコー!!』
タダクニとガチホモが同時に叫ぶ。
きりもみしながら六、七メートルほどの高さに到達すると、マサヒコはそのまま頭から地面に突っ込みグシャッと嫌な音を立てた。
外下々野はマサヒコと一緒に落ちてきたボールの破片の一つをキャッチし、笑いを必死で堪えるような顔をわざとらしく作る。
「くっくっく。文字通りワンアウトってな」
『ナイスキル! ナイスキル!』
怒外道ナインはそれを見てゲラゲラと爆笑している。
「森川! くっ、なんと卑劣なッ!」
「なんということだ……。まだ若くてアホなのに……」
ガチホモが無念の表情で肩を震わせる。
「これが本当に野球の試合なのか……!? 審判!」
しかし、審判はシュウジに応えず、人形のように黙り込んだままだった。
(くそっ! 怒外道の報復を恐れているとはいえ、ここまでとは……)
なぜかアフロ頭で全身黒焦げのマサヒコを囲みながら、カス中ナインの間に
「う……うう……」
と、マサヒコが
「マサヒコ!」
「ここは……天国か? 美人のお姉ちゃんは……いるか?」
「……大丈夫みてえだな。ほら、立て」
タダクニは呆れながらも
(ほお、あれを食らって起き上がれる奴がいるとはな。今度のはちっとは楽しめそうじゃねえか)
外下々野はベンチに横たわったマサヒコを見ながら舌舐めずりし、次なる獲物であるバッターを見定める。
ゲームが再開し、一死ランナーなしでバッターは二番セカンド、烏丸シュウジ。
「おらよっ!」
外下々野の投球はシュウジの頭を狙った完全なデッドボール。
「くっ!」
シュウジは上体を反らし、それを強引な態勢で打ちに行く。しかし打球はショート正面のライナーで二死。
「何の躊躇いもなく頭に投げてくるとは……。あれが全国優勝校のエースだと!?」
ベンチに戻ったシュウジが苛立たしげに言う。
「ビーンボールどころか爆弾投げてきやがったけどな。さーて次は何が来るかね……ん?」
タダクニが何気なく一塁の方を見ると、そこを守るハゲ頭の太っちょが何かを手に隠し持っているのが見えた。
「……?」
それを訝しがるタダクニをよそに、三番サードのヒロキが打席に立つ。
「魔球、シャインボールってな!」
次に外下々野が投げたボールは、なんと閃光手榴弾のように眩い光を放ち始めた。
「くっ!」
突然の閃光がヒロキの視界を奪う。
「
わずかに視界に捉えたボールに合わせ、ヒロキはバットを振り抜く。結果は見事な流し打ちで、ボールをライト前に運ぶ。
「はっ! ざまあみやがれ!」
「ヒロキ、止まれ!」
「ああ?」
タダクニの呼び声に反射的に応じ、ヒロキはわずかにスピードを緩めて一塁ベンチを振り向く。と同時に、天まで届くような火柱とともに一塁ベースが消し飛んだ。
「なっ!?」
もしタダクニに呼び止められていなければ、今頃ベースと一緒に仲良く消え去っていただろう。ヒロキの背筋にぞっと冷たいものが走った。
「ちっ、しくじったか。勘の良い野郎だ」
ファーストの太っちょが舌打ちする。その手には起爆リモコンが握られていた。
「ほれ、タッチアウトだ」
背中をポンと叩かれてヒロキは我に返った。振り向くとそこには薄ら笑いを浮かべた外下々野がボールを片手に立っていた。
「命拾いしたな、兄ちゃん。ま、せいぜい楽しませてくれや。はっはっはっ」
そう言うと、外下々野は高笑いしながら三塁ベンチへと戻って行く。
「野郎……!」
「なんて奴らだ。これが怒外道……」
「どんだけだよ、あいつら!」
「なーに、心配すんな。どーせこんなこったろうと思って色々手は打ってある」
ざわつく一塁ベンチの中でただ一人、タダクニはどこか余裕のある笑みを見せていた。
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