第14話 いじめ

暇つぶし



 パシャン。

 ぽこ……ぽこ……ぼこぼこぼこ。

 ざぱっ。

「ぜはっあっはあっはあっはあっはあっ」

「はいもう一回」

「いやっいやっ」

 ばしゃん。

 ぼこぼこぼこ。

 ばしゃっ。

「んんっげほっおえっおっ……はあっはっはっあ、あ、あ、」

「もうちょっと堪えろよ。ほら、いくぞ」

「あああっゆる、ゆるしっ」

 ばしゃんっ。



 それは地獄のようでした。

 両腕を背中で掴まれ、目の前に置かれた水槽に頭を押さえ付けられました。ぼこぼこと空気を吐き出しては、顔を上げさせられ、ほんの少し呼吸をしては、また頭を水に浸されました。

 飽きるまで、何度も何度も、それは繰り返されました。

 回数を重ねるごとに、身体は弛緩してゆくのです。

 酸素が足りなくて、脳は動かず、ほんの少しの呼吸すらままならない。

 もう死ぬだろうと思った時には身体が勝手に尿を排泄し、それを嘲笑われるのです。

 自分の粗相だからと、最後にはその汚水に顔を押し付けられました。

 それは私の知る限りの、地獄の日々でした。



「ああ、飽きたなあ。どうだ、いっそ、死んでみるか」

 嗚咽を零す私を横目に、いともたやすく言いました。

 死んだほうがましだと、何度も思いました。けれども決して、私は死ねませんでした。死ぬことすら、許されませんでした。

「なあ、そういえば、男同士でセックスが出来るとか」

 床で汚水を啜る私の腰を、ツイと指が撫でました。それは薄気味悪いとか、気色が悪いとか、そんなものを感じました。けれども私は、汚水を啜る事しか許されていませんでした。

「お前は女とセックスもした事がないだろう。だったらいっそ、お前が女になればいいんだよ」



 どうして私はこんな目に遭わねばならないのかと何度呪った事でしょう。

 納得の理由でもあればいいのに、神様はそんなものすら、与えてはくれませんでした。



「うううう……」

「呻くな、萎えてしまう」

 痛みに、圧迫感に、熱に、私は低い唸り声を上げました。穴は無理やりこじ開けられ、内臓を引きずるように擦られ、惨めな思いに、ただ呻くしか出来ませんでした。

「ああ、ほら、気持ちいいと言ってみろ、ほら、ほら、」

「うっ……う、ぎっ、」

 傷付いた穴をわざと横に引き裂き、肉棒を奥まで穿たれます。

 気持ちいいとはなんのことか。ああ、そうか、人としての尊厳やなにやらを殺される事を、きっと気持ちいいと、いうのでしょう。

「ぐううっ……き、もちい、気持ちいい、気持ちいい……」

 あまりの気持ち良さに、目頭が熱くなり、雫がしとどに降りました。

「そうだろう。卑しい穴め、引きちぎりそうに食い付く」

 そう言いながら奥へ奥へと突いて、私の内腑はぐずぐずに腐り落ちていくのがわかりました。

 ああ、気持ちいい、気持ちいい。このまま死んでしまいたいほどに。



 それからと言うもの、時もところも構わず、私は気持ちいいことを繰り返されました。

 時には厠で、私は便器にしがみつき、後ろから何度も穿たれました。痛みと疲弊で尿を排泄すると、ちょうど良いと嘲笑われました。

 時には草むらで、地面に私の性器擦り付けられ、痛みに意識を飛ばしながら、何度も気持ちいいと泣き叫びました。

 あるいは教室の机で、手足を机の脚に縛られ、まるで物のように扱われました。

 それから床の上で、私には安らぎなど存在しないのだと、朝夜問わず穿たれて、眠れない日々を繰り返しました。



 どうしてこんな目に遭うのかと、どうしてこんな事をするのかと、一度聞いた事がありました。

 納得のいく理由などあるわけがないとわかっていました。何かが気にくわないとか、何か反感を買ったとか、そんな理不尽な理由でも良かったのです。



「ただの暇つぶし」



 例えば幼い子供が、たまたま目に入った蟻を何の気なしに踏み潰すように。

 これはそういう事なのだと、私は理解しました。

 幼い子供の方がまだ優しいでしょう。一瞬で踏み潰してくれるのですから。



 終わらない暇つぶしに、私はまたうわ言のように、気持ちいいとつぶやくのです。



終わり

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