夕哭
瑠衣
母
母が入院した。
つい先日、2日前のことだ。
帰宅早々、母が入院した。と祖母から聞いた。
驚きのあまり、言葉が出なかった。
確かに、数日前まで具合は悪かった。その日の朝は、母がトイレで吐いていたのを見てしまった。
いつも健康な母が吐くなんて、その時は本当に心配したのだけれど。
それでも、家の近くの小さな診療所で診てもらった後は、とても元気そうだった。
それなのに。
今日だって、朝はいつも通り会社に出勤していった。
それなのに。
いつものように、「いってらっしゃい。」って言ってくれた。
それなのに。
それなのに、どうして。
祖母や、その後帰ってきた父の話によると、どうやら「胆のう」という器官に「うみ」が溜まっているらしい。と。
診療所に行った後も、腹部の痛みは続いていたらしく、知り合いのお医者様に紹介してもらった大きな病院で検査したところ、それが分かったらしい。と。
私にはよく分からなかったけれど、それでもこれだけは分かった。
母は、自分の痛みを、家族の誰にも言わずにいたのだ。と。
いつも元気で、明るくて、自分の道を突き進んでいて、毎日を楽しんでいて、優しくて、時には激怒する、そんな私の母。
でも、ああ見えて、実は弱い部分もちゃんと持っている。
私の弟が、私達家族の信用を裏切ったとき。母の涙を初めて見た。
祖母に責められた時、悔しそうにしている母の姿は、見ていてつらかった。
でも、次の日には、いつも通りで。
自分が心配していたのが、馬鹿みたいに思えるほど、いつも通りで。
だけど、本当は、私達家族に心配かけたくなかったんだろうな。と。
今回の痛みのことも、きっと故意に隠していたのだろう。と。
だけど。できれば。
本当につらかったのなら、私にも言って欲しかった。
私は鈍いし、どんくさいから、言ってもらわなきゃ何にも気づかない。
「お前は鈍いね。」って言うのは、いつも母のくせに。
家族なんだから、言って欲しかった。
じゃなきゃ、心配で心配で、心配でしょうがない。
そんなこと、母に面と向かっては言えないけれど。
とにかく。
早く母の顔が見たい。
そう願う、初夏の夕暮れ。
夕哭 瑠衣 @stdwami
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