間奏3 マリモ・カラス
高校2年生の時にある、嬉し恥ずかしドッキドキのイベントといえば修学旅行。しかし、自分には漫画のようなエピソードが訪れることもなく、つつがなく終わりを迎えた。
行先は北海道だった。ただただ続くまっすぐの道。ラベンダーキャラメル及び牛タンキャラメルの壮絶なまずさ。ソフトクリームはおいしかった。羊に囲まれてジンギスカンというよく考えると残酷なことこの上ないこともあったっけ。
さて、今回は旅行の終わりから本題に入る。
阿寒湖に行ったので、マリモをもらった。緑で丸いアイツだ。
小さいビンの中にふよふよと浮いていた。
思えば昔から植物とは縁のない暮らしをしていた。朝顔の観察は好きではなかったし、花を活けるのも得意ではない。どちらかというと写真で満足するタイプである。
そんな私だが、マリモくらいはいけるだろう、と踏んでいた。マリモを駄目にするやつなんて聞いたことないのだから。
私は小瓶を机の上に置き、その成長を見続けようとした。
しかし、突然観察は中断した。小瓶が数日で目の前から消えたのだ。辺りを捜索したが見つからない。
多くの事件がそうであるように、このこともまたすぐに忘れられた。
全く虚しい世の中である。私は毛ほども被害者(藻?)を思い出さなかった。
数か月後、ひょんなことから机の下を掃除した。埃にまみれた小さなビンが出てきた。
「なんだっけこれ?」
中には茶色い球体がひとつ。私はそこで思い出したのだ。過去のことを。
「マリモ……!」
マリモはすっかり変色し、帰らぬ人(藻)となっていた。
ああ、私にあるのが「みどりのゆび」だったなら!
彼女を生きながらえさせたであろう。
茶色いゆびしか持たない私をゆるしておくれ。
それ以来植物は育てていない。
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