第1話 小学生編~永遠に飛べないものに捧ぐ
私が通っていた小学校には、月に2回ほど集団レクリエーションのような時間が存在した。
生徒対抗で球技とか、一輪車をするとか、もうそういうものが得意じゃない生徒にとっては、はっきりいって地獄のような時間だった。
「はやくおうちに帰りたーい!」その一心であった。
さて、私が小学4年生の頃だと記憶しているのだが、「竹とんぼを作る」というプログラムが行われたことがある。手でくるくる回して飛ばすあれである。
そんなTHE☆昭和なアナログおもちゃを、ナイフで作ることになった。
「やれやれ、まーたナンセンスなことを……」と思ったが、そんなことは決して口にせず、材料の竹を削りにかかった。大体ねえ、飛ばすのも苦手だから嫌なんだってば。
タイトルやここまでの流れでだいたい察していただけると思うのだが、まあ、うまく作れっこありません。時間かけてもむなしいだけ。
そしてだんだん腹が立ってきた。
うまく削れない。くやしい。なんでこんなことやらなきゃいけないんだ!怒りがふつふつとこみあげてくる。
もう俺の衝動を誰も止められないぜ……こうなったら……こうなったら……せめて、俺の手でオマエをラクにしてやる……!!
私は怒りに任せ、ヤツをつかんだ。そして一気に力を込めた――。
「○×%◆☆♪#♨★&@!!!!!」
ここで問題です。私がいったい何をしたかおわかりだろうか。
私が力を込めたのは憎いあんちくしょうの首……などではもちろんなく、
彫刻刀の、刃先だった。
ご丁寧に、刃先を親指と人差し指で力いっぱい掴んだのだ。
Q.はい、すると、どうなるでしょう?
A.はい、指が、切れま~す!
すぱっと切れた所から赤い滴が、ぽとぽと垂れる。
不器用なだけでなく痛みにも大変弱い私は、流れる血と傷口に動揺し、先生に連れられ、教室を後にした。
私の作りかけの竹トンボは、戻ってきた時には忽然と姿を消していた。永遠に空を飛べない彼(竹トンボ)は、おそらく私と離れ離れになっている間に処分されただろう。ごめんよ。来世はもっと器用なやつに作ってもらえるよう、祈っておくぜ……。
少し話を戻そう。私が病院に行くと、先客がいた。自分と同じクラスの女子の妹(1年生)だった。面識はないが、特殊な名字と顔のせいですぐわかった。
彼女は走っていて転び目の上を切ったようだ。見るからに痛そうだったが、無表情で、泣くことも声を発することもなく治療を受けていた。まるでデューク東郷の魂が入っているかのようなハードボイルドさだ。
かたや4個も年上の私。実は傷はそんなに深くなく、1針縫う程度で済んだのだ。良かった。だがしかし。
元々注射など痛いもの全般が大嫌いで、縫うのも初めてだった私は、「ひいいいィぎゃあああァうおおおおォ!!!」と声にならない声を出し、目には涙である。ふがいない。ああ、実にふがいない。己の不器用さと未熟さにただ恥じ入るのみである。
あの日以来竹トンボは作っていない。
そんな微妙な私だが、世界の片隅でなんとか生きている。相変わらず不器用は治らないが。
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