　小説（しょうせつ）は好（す）きだ。でも、小説（しょうせつ）を書（か）くとき何（なに）を書（か）けばよいか分（わ）からない。それでは完成度（かんせいど）が上（あ）がりません。しかし書（か）けない。

　そんな人（ひと）は意外（いがい）と多（おお）いです。

　それは多（おお）くの場合（ばあい）に、手段（しゅだん）と目的（もくてき）と結果（けっか）の関係性（かんけいせい）がおかしくなることで起（お）きています。

　手段（しゅだん）と目的（もくてき）と結果（けっか）とはなんでしょうか？

　手段（しゅだん）とは、小説（しょうせつ）です。

　目的（もくてき）とは、書（か）くべき対象（たいしょう）の表現（ひょうげん）です。

　結果（けっか）とは、褒（ほ）められることです。

　目的（もくてき）における書（か）くべき対象（たいしょう）とは多（おお）くの人（ひと）によって異（こと）なりますが、大昔（おおむかし）の定義（ていぎ）で言（い）えば主題（しゅだい）、つまりテーマであると言（い）えるでしょう。

　テーマとは何（なん）でしょうか？　それは作品（さくひん）が表現（ひょうげん）すべき題材（だいざい）です。もしくは表現（ひょうげん）したい題材（だいざい）と言（い）い換（か）えることができます。

　アフリカにおける経済活動（けいざいかつどう）？　日本刀（にほんとう）を持（も）った女（おんな）の子（こ）の活躍（かつやく）？　魔法（まほう）使（つか）いの学校（がっこう）に入学（にゅうがく）した主人公（しゅじんこう）の学校生活（がっこうせいかつ）？　異世界（いせかい）の料理（りょうり）？　ゲーム世界（せかい）に閉（と）じ込（こ）められた登場人物（とうじょうじんぶつ）のデスゲーム？

　しかし大（おお）ざっぱなテーマは大（おお）ざっぱな目的（もくてき）でしかありません。もう少（すこ）し細（こま）かいほうが良（よ）いでしょう。詳（くわし）しくは後述（こうじゅつ）します。

　手段（しゅだん）と目的（もくてき）と結果（けっか）の関係性（かんけいせい）を時系列（じけいれつ）で並（なら）べましょう。

　○　手段（しゅだん）を利用（りよう）して目的（もくてき）を達成（たっせい）し、結果（けっか）を得（え）る。

　これは問題（もんだい）がありません。

　では、何（なに）を書（か）けばよいか分（わ）からないときはどうでしょう。

　×　結果（けっか）を得（え）たいので手段（しゅだん）を利用（りよう）する。

　なぜかただの願望（がんぼう）になっています。しかも目的（もくてき）がありません。そうです。書（か）きたいんだけど書（か）きたいことがない人（ひと）は、書（か）くべき対象（たいしょう）が存在（そんざい）していないことが多（おお）いです。

　わたし自身（じしん）は小説（しょうせつ）を誰（だれ）かに教（おそ）わることなく来（き）ましたが、小説（しょうせつ）を書（か）くことについて教（おそ）わりたいという人（ひと）には必（かなら）ず最初（さいしょ）に言（い）っている言葉（ことば）があります。

「書（か）きたいものを書（か）いてください。書（か）いたものについて、どうやればもっと良（よ）くなるか考（かんが）えましょう」

　小学校（しょうがっこう）の作文（さくぶん）の授業（じゅぎょう）みたいな言葉（ことば）ですね。書（か）きたいものというのは作者（さくしゃ）自身（じしん）が抱（かか）えているテーマです。

　作者（さくしゃ）の持（も）つテーマとは常（つね）に変化（へんか）し続（つづ）けます。もったいつけずに使（つか）いましょう。

　作者（さくしゃ）の抱（かか）えるテーマが作品（さくひん）に強（つよ）く反映（はんえい）されたとき、その作品（さくひん）はテーマ性（せい）が強（つよ）い作品（さくひん）となります。

　抱（かか）えているテーマが軽（かる）ければテーマ性（せい）も軽（かる）いでしょう。

　抱（かか）えているテーマが重（おも）ければテーマ性（せい）も重（おも）いでしょう。

　書（か）くことが先（さき）にあるとき、テーマ性（せい）は薄（うす）くなりがちです。人気（にんき）が出（で）たらこんな展開（てんかい）にするからここはこうしておこう……ここは大事（だいじ）だけどもっと人気（にんき）が出（で）てから書（か）こう……ああ人気（にんき）が出（で）るかも分（わ）からないのに書（か）くのは面倒（めんどう）になってきたぞ……第一話（だいいちわ）は全然（ぜんぜん）読（よ）まれなかったし……。と、不思議（ふしぎ）なことに人気（にんき）があれば完成（かんせい）させることが前提（ぜんてい）になっています。そんなとき作品（さくひん）の質（しつ）は無限（むげん）に低下（ていか）していきます。

　どこまで書（か）くかを決（き）める。方向性（ほうこうせい）の変更（へんこう）があってもいい、きりのいいところまで書（か）く。それが大事（だいじ）です。

　作者（さくしゃ）は作品（さくひん）をコンスタントに書（か）きますが、心（こころ）が抱（かか）えるテーマは都合（つごう）よく生（う）まれてくるものではありません。

　それでも、書（か）きたい。作者（さくしゃ）はとにかく書（か）きたいのです。もし書（か）きたいのであれば、書（か）くためのものだけを残（のこ）して全（すべ）て捨（す）てましょう。書（か）くマシーンになりましょう。

　そうなると借（か）り物（もの）のテーマを使用（しよう）してでも書（か）くことになります。周囲（しゅうい）のテーマをうまく使（つか）って、組（く）み合（あ）わせて、そこに少量（しょうりょう）の借（か）り物（もの）のエッセンスを足（た）して、最後（さいご）の隠（かく）し味（あじ）に自分（じぶん）の持（も）ち味（あじ）を足（た）して、そうです書（か）くのです。

　調（しら）べ物（もの）をするためのインターネット環境（かんきょう）を使（つか）わない時間（じかん）を決（き）めましょう。科学（かがく）が進歩（しんぽ）していつでもどこでも作品（さくひん）を生（う）み出（だ）せるようになりました。そのために世（よ）の中（なか）には昔（むかし）と比較（ひかく）にならないほど作品（さくひん）が溢（あふ）れているのです。小説（しょうせつ）が好（す）きだとそれらを読（よ）みたくなります。でもあなたの時間（じかん）は有限（ゆうげん）なのです。

　日本（にほん）に存在（そんざい）する小説（しょうせつ）作品（さくひん）の絶対数（ぜったいすう）が爆発的（ばくはつてき）に増（ふ）えています。そうなるとあなた自身（じしん）も次（つぎ）から次（つぎ）へと作品（さくひん）を生（う）み出（だ）さなければいけないのです。新（あたら）しい作品（さくひん）はすぐに過去（かこ）となります。

　この傾向（けいこう）はこれからも続（つづ）くでしょう。だから書（か）きましょう。

　そしてこれが本題（ほんだい）です。心（こころ）の抱（かか）えるテーマが無（な）いけれど借（か）り物（もの）のテーマを使（つか）うのも嫌（いや）だと駄々（だだ）をこねていると作品（さくひん）は書（か）けません。

　書（か）きたいものが分（わ）からないのに書（か）けるのは他人（たにん）の注文（ちゅうもん）に対（たい）して作品（さくひん）を書（か）くときだけです。自分（じぶん）の作品（さくひん）を書（か）きたいのに書（か）きたいものが分（わ）からないなら手段（しゅだん）と目的（もくてき）と結果（けっか）の関係性（かんけいせい）がおかしくなっています。心（こころ）をリセットしましょう。

　テーマの細（こま）かさについて補足（ほそく）します。

　テーマが細（こま）かい作品（さくひん）では「飢餓（きが）に襲（おそ）われた村（むら）の住民（じゅうみん）が旅（たび）の商人（しょうにん）から食料（しょくりょう）を買（か）い付（つ）けるためにどのような行動（こうどう）をするか」であったり「肉親（にくしん）を殺（ころ）された警察官（けいさつかん）の主人公（しゅじんこう）が捜査（そうさ）を行（おこな）って犯人（はんにん）を追（お）い詰（つ）めていく」など。

　テーマが大（おお）ざっぱな作品（さくひん）では「ゲームの世界（せかい）で野菜（やさい）を育（そだ）てる」であったり「俺（おれ）は無敵（むてき）すぎてつまらないからスローライフをおくる」という傾向（けいこう）があるように思（おも）います。

　テーマとしては強（つよ）くても具体的（ぐたいてき）でないパターンとして「希望（きぼう）と絶望（ぜつぼう）」とか「愛（あい）と憎（にく）しみ」など概念（がいねん）による抽象的（ちゅうしょうてき）なものもあります。恋愛小説（れんあいしょうせつ）は「恋愛（れんあい）」で勝負（しょうぶ）します。

　注意（ちゅうい）する必要（ひつよう）があるのはテーマだけでは何（なに）を書（か）けばいいか分（わ）からないということです。

　何（なに）を書（か）くにしても話（はなし）の筋（すじ）は必要（ひつよう）です。書（か）くものは書（か）く、書（か）かないものは書（か）かない。割（わ）り切（き）って話（はなし）の筋（すじ）を考（かんが）えましょう。

　執筆中（しっぴつちゅう）に話（はなし）の筋（すじ）を判断（はんだん）できるなら話（はなし）の筋（すじ）を事前（じぜん）に用意（ようい）する必要（ひつよう）はありません。ただ散漫（さんまん）にならないようにしましょう。

　昔（むかし）のテーマ作（づく）りと今（いま）のテーマ作（づく）りに差（さ）はあるでしょうか？

　答（こた）えはノーです。今（いま）も昔（むかし）もテーマ作（づく）りの善（よ）し悪（あ）しや質（しつ）は変（か）わっていません。表現方法（ひょうげんほうほう）の変化（へんか）があるのみです。

　ラノベなキャラクターが軽（かる）いノリで戦（たたか）ってなんとなく流（なが）れで愛（あい）する人（ひと）を救（すく）ってしまっているのと、病気（びょうき）の妹（いもうと）の手術代（しゅじゅつだい）のために重苦（おもくる）しい世界（せかい）で命（いのち）がけで金持（かねも）ちと戦（たたか）う少年（しょうねん）は、同（おな）じ作者（さくしゃ）が書（か）けばきっと表現（ひょうげん）が違（ちが）うだけでテーマとしては同（おな）じなのです。