第21

 今日学校に迎えにいけなかったから送るよ。という、クルスさんとクゼさんの有難い言葉を丁重に断った。

 まだ明るいし、たまには歩いて帰ろうと思ったからだ。

 家の近くまで来たところで、モデルみたいな女性が立っているのを見つけた。

 あ、こっち見てる。じろじろ見すぎたかな。

「ごめんなさい、ちょっといいかしら。」

「?はい。」

 なんかこの人……変?

「駅で人と待ち合わせをしているのだけど、道を教えてくれない?」

 あぁそれくらいならと、道を教えた。

「でも歩いて20分くらいかかるので、迷ったときはタクシー拾った方が良いと思います。」

「そう、ありがと。」

 やっぱなんか、この人男っぽい……。

 全体的に骨ばってるというか。

 うーん、でも勘違いだったら失礼だし。

 唸れ!わたしの脳みそ!

「あの……。くび、スカーフとか巻いた方がいいですよ。」

 すっごい訝しげに見られた。

 ああ失敗したっ。喉仏目立ちますよとか言えないし!男性ですかとか聞けないし!

「ふーん……あなた、よく見たら綺麗な顔してるわね。ね、パーティとか興味ない?相手を探してるのよ。」

「はぁ……。」

 あれ、怒らないの?

 というか話がおかしな方向に転がりだした。

「来週の日曜日なの。これ招待状ね。」

 差し出された白い封筒を思わず受け取ってしまった。え、ドレスとか持ってないんだけど。

「あ!そうそう連絡先交換しときましょ。」

 矢継ぎ早やつぎばやに喋ったあと、ばいばーい。と上機嫌で行ってしまった。

 ……わたし、行くなんて一言もいってない。

 受け取った招待状を見てため息をついてしまった。



 こういったことは身近な大人に相談すべき。

 そう考えたわたしは、さっそくこの舞い込んできた厄介ごとを「便利屋」にいる2人に押し付けにいった。

「これ、コンゴウグループの株主総会じゃないか。パーティはおまけだよ。」

 たまにだけど、クルスさんに髪をセットしてもらう。

 やっぱりやってもらった方が仕上がりが違う気がするなぁ。

「へぇ、そうなんですか。株主総会ってよくわからないんですけど、何するんですか?」

「株主はわかる?その会社の株をお金で買って、利益が出たら配当金とか、割引券みたいなものがもらえるんだけど。」

「へぇー。株っていったら買って、売って儲けるくらいしか知らなかったです。」

「そういうのもあるよ。株をすぐ売らないでずっと持っておくって方法もあるだけ。株主総会はって付いてるだろ?業績とか会社の方向性……どういったビジネスで稼いでいくかってことを、株主に報告する義務があるんだ。」

 ちょびっとだけわかった。それでパーティはおまけと……。

「行くべきだと思います?御曹司、探してるんですよね。」

「別に、行ったところで意味ないんじゃないか?肝心の息子は行方不明中だ。」

「それ、渡してきたのたぶん男性なんですよ。女性の格好した。」

おぉ、クルスさんがびっくりしてる。

「……だとしても、その女性?が、息子だとは限らない。そりゃ、沙希さんが『依頼人』じゃなければ行ってきて欲しいっていうんだけど、ね。」

 そっか、わたしはあくまでもお客さんってわけだ。

 行きたいと言えば「便利屋」にきた依頼のせいだろうと思うし、行きたくないと言っても止めたりしない。

 それならば––

「クゼさーん!いますかー!!」

 はいよーと陽気な返事のあと、部屋の扉が開いてクゼさんが入ってきた。

「おう!どーした?」

「コンゴウグループのパーティに誘われたんです。御曹司を探すにしても、参加した方がいいですよね。」

「そりゃそうだろう。」

 何を当たり前な、という顔。

「でもわたし、このままじゃ行けないかもしれません。」

「なんでだ?」

「だって、パーティに行くドレスも靴もないんですもの!」

 まるでシンデレラのワンシーンみたいになっちゃった。

「そんなもん、簡単だ!全身ここでコーディネートしてけばいい!ただし……」

 ちゃあんと、依頼はこなして来いよ。

 クゼさんはウインクして笑ってて、クルスさんは呆れてた。

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