第20話

 着いてしまった……。

 意気込んではいるものの、やはり怖いものは怖い。

 途中で怖気づいて、ケーキショップでいくつかケーキやタルトを見繕ってきたが、釣られてくれるだろうか?結論。

「むりだよ……。」

 よし、腹を括ろう。

 ケーキすっごく高かったし、

 1人じゃ食べれないし!

「ついて行こうか?」

 藤堂さん、こんなときに優しさはいらない!

 キザったくわらってるし!

 結構です。と断ってビルに入っていき、いつも通りにエレベーターに乗った。



 ノックした扉を開けたのは、クルスさんだった。

 寝起きみたいな服装で、ポカンとしている。

「あの、昨日はごめんなさい!その、怒らせてしまったみたいで……。」

「え!?あ、待って、ちょっ、あれ!!?」

 どたどたっと慌てて奥まで走っていく。

 あ、ダメだ。お、おもしろくて笑いがっ。

 事務所に入ると、クルスさんが「あちゃー」て顔をしていた。

 クゼさんは仕事で外かな。

「今日って、5限までだった?」

「はい。そうです。ぷっ、くっふふふっ。」

 もう、さっきまでのわたしを返して欲しい。

 もう二度と、ここには来れないんじゃないかって思ってたのに!

「別に、昨日は沙希さんに怒ってたわけじゃないから……。」

 クゼがまさか女の子の前で……。となにやらブツブツ言っている。

「紅茶が飲みたいです。とびっきり、美味しいお茶。ケーキも買ってきたので、甘くないクッキーもありますよ。えーと……ぷてぃふーるされ、ていうお菓子。」

「––わかりました。他にご注文は?」

 肩をすくめて、ウェイターみたいな仕草。

 それならわたしも、お嬢様みたいに返さなくては。

「そうね。昨日の依頼を教えて欲しいわ。」



 陶磁器のポットに、フルーツタルトとプティ・フール・サレ(さっきフランスのお菓子って教えてもらった)が乗ったお皿、折れそうなくらい軽いフォーク。

 あぁ!夢心地すぎるっ!

「……先に食べる?」

「食べながら聞くので遠慮なく話して下さい。」

 食い気と興味は量れない。

 どっちと聞かれたらどっちも!とわたしは答える。

「んじゃまぁ、話すけど––」


 昨日来た依頼人の名前は高嶺たかみねじゃなくて、金剛こんごう

 こんごうって、あのコンゴウグループ?

 そ、その御曹司を探して欲しいって依頼だった。

 御曹司?娘って言ってませんでしたっけ。

 その御曹司、女装癖というか……普段は男装を絶対にしないらしい。

 なんでですか?

 さぁ、ただ大企業の御曹司がそういう人間だと世間体に関わるっていうことで、隠そうとしたんだよね。

 なんでクルスさんわかったんですか?ウソついてるって。

 藤堂にきいてたから。

 へー……。まぁ、可哀想な話ですね。生まれが悪かったというか。

 沙希さんは別に女装に忌避感とかはないの?

 うーん。変わってるかな、とは思いますけど。

 ほら、人によって好きな服とかこだわりって違うじゃないですか。

 シンプルな服が好きだったり、ロリータしか着ない!て人もいるし。

 だから、その中で好きな格好がたまたま女性の服だったってだけなんじゃないかと。

 そうか……。うん、受け入れられるかはともかく、その考え方は素敵だと思うよ。

 クルスさんはそういう人、苦手ですか?

 何人かそういう人知ってるけど……一線を越えるとすごいパワフルになるというか、また違った人種になるから苦手といえば苦手、かな。

 なるほど。


「その女装癖の御曹司を探すのが今回の依頼……と。」

 紅茶を飲みながらクッキーに手を出した。

「まだ食べるの?」

「勉強に糖分は必要です。」

「そのクッキー……甘くないけど。」

「これおいしーですねー!」

「あとでこのクッキー売ってたお店教えてよ!」

 どうやらいたく気に入ってもらえたらしい。

 何より何より。

 そのあとクゼさんが帰ってきて、ケーキに目を輝かせていたが1日1個!と釘を刺されていた。

 それから、クルスさんにそれはもう、可哀想なくらい説教されていた。

 まあ、見せられたくないもん見ちゃったし、……自業自得ってことで。

 家まで送ると言われたが、時間もまだ早いし歩いて帰ることにした。

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