世界は嘘で塗れてる

嘘つきな依頼人

第18話

 チャイムがなって、やっとみんなが席につく。

 あの日からみんなの態度が激変した。

 元々相手にされてなかったから、これが普通なのかもしれないけど。


 わたし"雨乃木沙希あめのきさき"は自分のために「便利屋」へとある依頼をしている。

 ひっじょーに自分勝手で、自分のためだけの依頼だけれど、「便利屋」はで快く引き受けてくれた。

 まぁ、勉強以外の努力をしなきゃ達成できないってのはちょっと辛いけど。

(解決策としてヒエラルキーのトップに。ていうのは疑問の残るところではある。)

 ともかく、事務所に行けばおいしい紅茶が飲めるし絶版の古書は読めるし最高ではある。

 人形には興味ないけど、隅っこの椅子に置いてある真っ白なフランス人形の髪や服の手入れをするのが、最近の楽しみでもある。

 冗談かわからないが、クゼさんは「おれたちの姉なんだ」と言っていた。

 今は「現代国語」の授業中だが、昨日「便利屋」に来た普通だけどとんでもない依頼と、ちょっとしたわたしの体験について思い返してみようと思う。



 夕方ごろ、「便利屋」に1人の男が訪ねてきた。

 わたしは制服ということもあって、応接室からは見えないように本を読み続けた。

 そんなに広くはない事務所だから、声なんか筒抜けだ。

「仕事の評判がとても良いと聞き、伺いました。高嶺たかみねと申します。」

 それは、どうも……とクルスさんは歯切れが悪い。

 何度か依頼を断るのを仕切り越しに聞いているが、今回の依頼も断りたい雰囲気を醸し出している。

「単刀直入に申し上げます。そちらにお願いしたいのは、家出した娘の捜索でして……。カードを持たせておりますので、使えばこちらに通知がきます。ですが、先月の請求金額がいつもより随分と少なく、調べてみましたところ2週間前から使っておらず……。」

「あの、失礼ですが娘さんが家出されたのはどのくらい前のお話ですか?」

「半年前になります。きっと帰ってくるだろうと今まで居場所を探さないでおきましたが、何かあったのではと心配になりまして。」

 ふむ……どうやらかなりのお金持ちらしい。

 カードを持たせて放置するとかどこぞのお嬢様だ。

「わかりました。お受け致します。」

 あら、随分即決するのねとか思ったら

「ただし、報酬は失敗でも成功でも1億いただきます。」

 なにその法外な値段!?

 紅茶を口に含んでたら吹き出してるよ!

 依頼人も絶対びっくりしてるよ……。

「二つ、あなたは僕に嘘をついています。一つは名前……まぁこれはいいです。カードの使用明細を見せてもらうつもりだったので、それで後々わかることですから。……許せないのは二つ目です。」

 クルスさんが激怒りしている関節のがする!

 仕切り越しなのに逃げ場がなくなった感じだ。

 やばい逃げたい。

 ふわり、と体が浮いた。

 そのまま運ばれて衣装部屋兼作業室に入る。

 毎朝髪のセットをしてもらっている部屋だ。

 クゼさんはそのまま床に胡座をかいて、その上にわたしを乗せた。

 結構これ……恥ずかしいことしてない?

「く、クゼさんて力持ちなんですね。」

「ほぼ全身機械だからなー。」

 ケラケラと笑ってるけど、どこまでほんとなんだろ。

「あ、疑ってんだろ。よっしゃ!ちょうどいいし手入れ手伝え!」

 そう言ってわたしを膝から下ろすと、ジャージのズボンを脱ぎだした。

「ぶぇっ!?ちょっ、まっ、て。」

 止める間もなくスルッと脱いでしまった。

 思わず体ごと目を逸らす。

 見ちゃいけないというか見たくないもん見せられそうになってる!

「いや!ちゃんとパンツは履いてるから!」

「当たり前ですっ!」

 もうどうにでもなれっ、とクゼさんの方を見る。

 うぅ。男性の下着とか見たくないやい。

「それで、手入れっていうのはナニをするんでしょう?」

「あー……うん。ちょっと待って。」

 よいしょっと左足の太腿からと皮を、皮膚を剥がした。

 ずるり、ずるりと爪先まで剥がし終わると、人の筋肉を真似たようにチューブが並んでいるのがより一層わかった。

「すまん。そこのクローゼットにこの皮のスペアと道具があるんだ。取ってくんねぇか?」

 このままじゃ歩けねぇし。って考えてからやって下さい!

 クローゼットを開けると、確かにゴムみたいな足が袋に入って置いてあった。

 毛とか生えてて余計気持ち悪いぃ……。

 一緒に置いてあった黒い鞄も持っていく。

 サンキュといって鞄から楕円に管がついたような物を出して渡される。

 グレネードとか手榴弾とかに形が似ていると言えばいいだろうか。

 その楕円の真ん中を押すとぽしゅぽしゅと管から空気が出てくる。

 うーん。渡されても何に使うのかわかんないや。

「それで足の隙間の砂とか吹き飛ばせるか?」

 おぉ。これはそう使うのか。

 出された足の前に座って足首?の部分を持つと、継ぎ目の部分をじっと見ていく。

 こんな機械見たことないしっ、と半ば開きなおっていた。

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